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東海道新幹線の臨時ダイヤ作成をシステム化、JR東海×NSSOLが季節変動やイベントへの対応力向上に挑む

臨時ダイヤ作成ルールをモデル化し需要の変化に合わせた柔軟な列車運行計画の作成を可能に

2024年3月27日

システム化により1日の臨時ダイヤを最長5分で作成可能に

──これまで手作業だった臨時ダイヤ作成をシステム化した狙いは?

細川 :東海道新幹線のさらなるサービス向上を見据えています。私自身、ダイヤ作成はいくつもの制約の中から最適解を見極める複雑な作業で、システム化は難しいと考えていました。しかし今後、お客様の需要はさらに高まり、列車本数が増えることは確実なだけに、人手に頼るだけでは、より柔軟なダイヤ作成が限界に近づいていました。

和田 正之(以下、和田) :JR東海 中央新幹線推進本部 中央新幹線建設部電気工事部の和田 正之です(写真3)。新幹線車両運用自動作成システムの開発当時は、新幹線鉄道事業本部電気部システム課で運行管理システムなどの開発・保全を担当していました。新幹線車両運用自動作成システムの開発に向けて技術開発を開始したのは2018年のことです。最適化技術のノウハウを持つ複数社との技術開発を経て、最終的にNSSOLとの共同開発を決めました。研究開発から始め、2020年からシステム開発に取り掛かり、2022年10月に本番運用を開始しました。

写真3:JR東海 新幹線鉄道事業本部 電気部システム課(開発当時)の和田 正之 氏

 新システムでは、定期ダイヤデータと、臨時ダイヤ作成に必要なデータを登録します。このデータには、時刻変更をしたい列車や、定例的に採用したい計画のパターンなどが含まれます。これをあらかじめ設定することで、早ければ数分、列車本数や指定条件が多い場合でも約5分で1日分のダイヤが作成できます。

太田 有人(以下、太田) :NSSOL技術本部 システム研究開発センター デジタルツイン研究部 統括研究員の太田 有人です(写真4)。当社では過去、他の鉄道会社のために同様のシステム開発を手掛けた経験がありましたが、東海道新幹線のように、これほど多くの列車本数を対象にするのは初めてだっただけに当初は、少なからぬ苦労を覚悟しました。

写真4:日鉄ソリューションズ(NSSOL)技術本部 システム研究開発センター デジタルツイン研究部 統括研究員の太田 有人 氏

細川 :企画提案の選定時、NSSOLの仕組みで自動作成した試作ダイヤは完璧ではありませんでした。ただ、私自身が困難と感じる箇所と、NSSOLの「今は、ここまでしかできない」と伝えていただいた箇所が一致していたのです。画面構成など使い勝手の面では他に優れた提案もありましたが、NSSOLのみなさんからは、「勉強して当社と一緒にやっていきたい」という熱意が強く感じられました。事実、今回のシステム開発では、その“勉強”の成果であろう提案をいくつも受け採用しています。

“当然”視されているダイヤ作成の業務知見を勉強会で引き出す

──システムの開発は、どのように進んだのでしょうか。

松山 紗季(以下、松山) :NSSOL 産業ソリューション事業本部 産業ソリューション第一事業部 システムエンジニアリング第二部 エキスパートの松山 紗季です(写真5)。車両運用自動作成システムの肝は「列車をどう走らせるか」のアルゴリズムの開発です。細川様などからダイヤ作成のルールや条件を教えていただきながら開発するのですが一筋縄ではいかず、当初はどうやっても満足なダイヤを出力できませんでした。

写真5:NSSOL 産業ソリューション事業本部 産業ソリューション第一事業部 システムエンジニアリング第二部 エキスパートの松山 紗季 氏

 その後、ダイヤ作成担当者の頭の中には、他にも種々のルールがあることが分かってきました。そうしたルールを実際のダイヤから分析し、2週間に1度の頻度で開催した共同勉強会で確認しながらアルゴリズムに落とし込んでいきました。そうして作成したダイヤの評価を受け、その改善のために次の分析に取り掛かるというサイクルをアジャイルに繰り返しました。

細川 :我々が当初提示したルールには、業務知見として“当然”と考えていたものが抜けていたのです。私たちが“経験と勘”だと感じていたことを、共同勉強会などを通じて形式知化されていく様子に大変驚きました。最終的には資料を見なくてもシステムについて話せるまでの関係を築けました。

 システムの本番開発途中に新型コロナ禍も発生しましたが、NSSOLとの徹底的な議論により2020年までにシステム要件を詳細に詰められ、コロナ禍による打ち合わせ進捗の遅延は、ほとんどありませんでした。