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東海道新幹線の臨時ダイヤ作成をシステム化、JR東海×NSSOLが季節変動やイベントへの対応力向上に挑む

臨時ダイヤ作成ルールをモデル化し需要の変化に合わせた柔軟な列車運行計画の作成を可能に

2024年3月27日

東海旅客鉄道(JR東海)は、これまで手作業で作成してきた東海道新幹線の臨時ダイヤを数分で作成する「新幹線車両運用自動作成システム」を日鉄ソリューションズ(NSSOL)と共同で開発した。曜日や季節、種々の大型イベントなど乗客数や移動パターンに影響を与える要因を加味しながら、需要の変化に合わせた臨時ダイヤ作成を可能にする。世界一過密とも言われる東海道新幹線の運行を支える臨時ダイヤ作成システムを導入した狙いや開発の工夫、今後などについてプロジェクト担当者が語った。(文中敬称略)

──東海道新幹線は世界一の過密ダイヤとされ、1時間に最大12本の「のぞみ」が走り2022年度では1日36万人が利用しています。

細川 一彦(以下、細川) :東海旅客鉄道(JR東海) 新幹線鉄道事業本部 運輸営業部 運用課(運用指令) 当直長の細川 一彦です(写真1)。2012年から2021年までの9年間、東海道新幹線の臨時列車ダイヤの車両運用計画作成に携わっていました。

写真1:JR東海新幹線鉄道事業本部 運輸営業部 運用課(運用指令) 当直長の細川 一彦 氏

需要の変化に応じる“定期”と“臨時”の2つのダイヤを組み合わせ

細川 :東海道新幹線は日本の三大都市圏である東京、名古屋、大阪を結ぶだけでなく、西日本旅客鉄道(JR西日本)が運行する山陽新幹線と相互乗り入れし、多数の列車が東京と博多の間で直通運転しています。その円滑な運用のために、全車両が16両編成で、座席数もJR西日本と合わせています。異常時などは東京駅で折返し新大阪止まりの列車を急遽、博多行に変更することも可能です。

 東海道新幹線の特徴はビジネスでの利用も多いことです。そのため乗客数は曜日や季節によって大きく変動します。加えて各地のお祭りやコンサートなどのイベントも乗客数に影響します。

 こうした需要の変化に応えるために新幹線のダイヤは、毎日運行する「定期ダイヤ」に、需要に応じた「臨時ダイヤ」を加えることで構成しています。いずれも従来の実績値などを元に作成しますが、定期ダイヤは年に1度、大型のダイヤ改正で定めます。臨時ダイヤは、イベント情報なども加味しながら、3カ月分を約半年前から検討し作成します。

 毎日運行する定期列車と臨時列車を合わせた1日当たりの列車本数は、年末年始などの最繁忙期には450本前後にのぼります。開業以来、ご利用いただくお客様は増え続けるとともに、列車の走行速度も高まってきたことで列車本数が増え続け、できあがったのが今の高密度ダイヤです。

乗務員や清掃時間の確保など列車だけではダイヤは完成しない

──ダイヤ作成時には、どのような要件を考慮しなければならないのでしょうか。

細川 :まずは、乗降人数や保有する車両数、前後を走る列車との間隔、他の列車との接続といった要素を勘案します。ただダイヤを適切に回すには、列車だけを見ていても不十分です。乗務員の充当や車内清掃時間の確保、車両基地での整備なども加味しなければなりません。多くの現業部署との連携が不可欠です。

 そこで、需要と列車数などを最適化したダイヤ案を2週間ほどかけて作成します。それを現業部署に提示し、それぞれが実際に対応できるかどうかを確認してもらいます。2〜3週間後に現業部署からのフィードバックを受け取り、そこから細かな調整をしてダイヤを決めていきます。完成したダイヤは新幹線の運用管理システムに登録し、実際の運行が始まります。

 この過程で問題になるのは、同時に走る列車の本数が増加し、ダイヤの密度が高まると、考慮すべき事柄が複雑になることです。例えば、終着駅での折返し整備が対応できなくなると車両基地へ一時退避させる選択が増えます。このため、1日のダイヤ全体がつかみにくくなっていくのです。

 それを、これまでは手作業で検討してきましたが、ダイヤの密度が高まると列車の動きを記述した線が増え、線間が重なって見づらくなったり、欄外に記入する検討中のメモ書きを間違えたりと人的なミスも生じやすくなります(写真2)。1つの間違いは、他のすべての列車に影響を及ぼすため修正時間も長引き、1日分のダイヤ作成に15時間もかかるようになっていました。

写真2:東海道新幹線のダイヤグラムの例。多数の線の1本1本が列車に相当する

 効率化やミスの軽減のために以前から、作成した計画を事前にチェックし運行管理システムへの入力を支援するシステムを導入しています。しかしながら、ダイヤの過密さが年々増してきたことでチェックの負担が増え、期限内に計画作成を終えることが困難になってきました。そこで、日鉄ソリューションズ(NSSOL)と共同開発したのが「新幹線車両運用自動作成システム」です。臨時ダイヤの車両運用計画作成を自動化し、作業時間を抜本的に短縮しました。