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東海道新幹線の臨時ダイヤ作成をシステム化、JR東海×NSSOLが季節変動やイベントへの対応力向上に挑む

臨時ダイヤ作成ルールをモデル化し需要の変化に合わせた柔軟な列車運行計画の作成を可能に

2024年3月27日

太田 :今回のシステムの仕組みを簡単に説明すれば、種々のルールを方程式に変換し、複数の方程式を組み合わせた連立方程式を解くという手法です。解が得られない場合は、不可能なルールの組み合わせだということです。各ルールには重要性を基に重み付けし、複数解の中から最もスコアが高いものを採用しています。

 当初は、その重み付けも不正確で、システムが作成したダイヤはJR東海様にとっては違和感を与えるようなものでした。その解消に向けて、どのルールの重み付けをどの程度変えるべきかを調整していきました。

 ただ現時点では、残念ながら対処し切れていない問題もあります。現業部門の方々が、現場の“頑張り”で対応できている場面です。例えば新幹線の車内清掃時間は決められています。ところが実際のダイヤでは、その時間よりも15秒早く済ませているケースが1日に数本あるのです。清掃員の方の工夫により業務を回しているわけですが、どのタイミングなら15秒早く済ませて良いのかまではシステムでは判断できません。

実現不可能な列車ダイヤはシステムが一瞬で検知

細川 :システムで作成するダイヤで完璧さを追求すると、今度は時間的に調整できる余裕が乏しくなることに気づきました。それでは現業部門との調整が長引いてしまいます。そのため今回の開発では、ダイヤ作成の完全自動化を見送り、車両基地における車両の夜間滞泊本数と所有編成数を超える計画にはしないなど、最低限必要な合理性を確保した状態で、臨時ダイヤを計画することをシステムに求めました。最終的には細かな部分を人が判断し、微調整することでダイヤを組み立てるようにしました。

和田 :臨時ダイヤの計画においては、営業列車だけでなく、回送列車を計画するなどで車両が偏って滞在しないように考慮しなければならないなど、組み合わせは複雑になり、システムの計算時間も長くなります。それでもダイヤ作成業務が従来の1日が5分以内へと抜本的に改善されました。

 またシステム面では、車両運用を自動作成する際に必要な条件をダイヤ作成担当者が自由に入力できるようにしたり、手作業においてダイヤ作成担当者が車両運用を作成する際に参考にしていたデータを本システムに、そのまま取り込んで活用できるようにしたりと、柔軟なダイヤ作成が手軽になるよう工夫もしています。

細川 :車両が絶対的に不足していれば、当然望み通りのダイヤは作成できません。それでも以前は「何とかできるのではないか」と数時間も手作業で悪戦苦闘した後に不可能だと気付くことがしばしばありました。本システムでは、列車設定に対し所有編成数を超える運用になる、そもそも不可能なダイヤ設定を一瞬で判定できたことも大きなメリットです。

形式知化できたベテランノウハウの新たな継承手段も必要に

──今後の展望について教えてください。

細川 :ダイヤ作成計画は計画作業の最上流にあり、乗務員の配置や終着駅などでの清掃対応、車両基地での整備・各種検査など、さまざまな業務に影響します。それぞれの業務に対応した個別システムは既に構築・運用しているだけに、周辺システムとの連携を進めていきたいです。

 例えば、車両の検査計画業務は各車両の走行距離から管理しますが、ダイヤ作成の全体走行キロデータはダイヤ作成システムから提供できます。各種データを他のシステムでも活用できれば、人の手に頼った作業を含め、業務全体の効率化や改善、そして将来の予測までができると考えています。

和田 :車両運用自動作成システム自体の使い勝手も高めたいと考えています。例えばデータの登録法は現状、ファイルの読み込みだけですが、より柔軟に入力できるようにできれば、業務のさらなる効率化につながります。ダイヤの作成能力自体も今後の便数増を視野に引き続き高めていく必要があります。

細川 :今回の開発を通じて、システムの完成度を高めるためには、単なる要望だけでなく、その背景や知見なども伝えることが大切だということに気づきました。NSSOLとの議論や記録から、ベテランの知見を明確な形式知にできたことは思わぬ収穫でした。その過程での共同研究会などNSSOLの“粘り強さ”が強く印象に残りました。

 一方で、今回のシステム化により手書きダイヤ作成によるノウハウを後任に伝えにくくなったと感じています。ダイヤ作成は鉄道事業の基盤であるため、システム化を前提にした担当者の知見は各種条件書に経緯を記録してきました。そうしたNSSOLとの共同作業や提案を、今後のさまざまな開発においても、引き続き期待しています。

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日鉄ソリューションズ