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空調機器の自動制御に生成AIを利用する実証実験、三菱電機が松尾研究所とソラコムと実施
ゴールからバックキャスト的に実証実験の内容を決定
−−プロジェクトのテーマは、どのように決めましたか。
澤田 :2023年の夏頃、ソラコムと松尾研究所が、IoT分野における生成AI活用を研究・推進する研究機関「IoT x GenAI Lab」を創設するという話を聞き、私たちに何ができるかを考えました。三菱電機がドメイン知識を持つオフィス空調機器領域で最適制御を実施し、「オフィスで働く人が快適になり、電気代削減につながるシステムが作れれば、世の中が幸せになる」という方向性を固めました。
今回、松尾研究所に伴走してもらい、何をテーマとし、どこをゴールにするかを設定しました。最初にビジネス実装について話し合った際には、生成AIを使って空調機器の最適制御が可能かどうかのデモも見せてもらいました。生成AIに対し、「空調機について、こういうシナリオで予測してください」という指示に続け、「今この部屋は20度です。2時間後には何度になるでしょうか」というようなプロンプトを組むと、「何度に設定した方が良いです。理由はこうです」と返してくれるというものです。
それで生成AIのポテンシャルを実感できました。「生成AIに教えていなくても、そこそこの回答が導ける」というのがポイントで、マルチモーダルな基盤モデルを使いこなすためのプロンプトエンジニアリングに注力できました。
横山 :最初は論文調査から始め、最新の技術トレンドを理解したうえでゴールを見据え、そこからバックキャスト的にプロジェクトを立案しました。空調の環境、実証実験をする場所、データ収集の方法などの条件を考えながら、どのようなAIならば活用できるのかの議論を重ねていきました。
澤田 :松尾研究所にとって私たちはクライアントですが、最先端の技術を保有し、ビジネスの価値を高めるには、どうすれば良いかというアプローチを採れる点で単なる学術機関とは異なる印象を持ちました。プロジェクトのキックオフと同時に高い目標を立て、そこからバックキャストして、今週は何に取り組むかまで具体的に支援してもらったことが大きかったです。
−−プロジェクトを通じて新たな発見がありましたか。
澤田 :生成AI、特に、GPT-4以降の大きなモデルを採用すると、インターネットで検索して出てくる情報は、ほとんど学習されています。例えば、「三菱電機製のこの機種」というように特に制約を与えず、ゼロショット学習での推論でもシミュレーターとして耐えうる精度を確保できました。
一方で、生成AIは厳密解を求めるのが苦手です。「明日の天気を予測する」などは100%の予測は不可能です。テーマの設定時に非常に高い目標を掲げてしまうと、いくら有能な言語モデルを使っても挫折しやすいかもしれません。ビジネステーマの選定が、各企業にとっての価値の最大化につながると思います。
横山 :松尾研究所としても「教えてなくても、そこそこ解ける」というのが最大の発見でした。企業と共同研究に取り組むケースでは、テーマ設定の負荷が大きく、データ収集の方法や、どの程度の時間や手間が必要かという検討や準備がプロジェクト実施のハードルでもありました。大規模言語モデルが大量のデータを学習済みであること、教師データを大量に収集しなくても検証が可能だというのは大きな収穫でした。
産業界での生成AI活用は製品開発サイクルを早める
−−生成AIが存在するなか、今後のビジネスをどう展望していますか。
澤田 :学術や技術は、この半年で10年に値するほどの速度で進展しているとも言われています。それに伴い多くのスタートアップが新しいビジネスを作り、リリースするサイクルも早くなっています。調査会社の米ガートナーは、グローバル平均では研究開発から7カ月で市場投入されるという調査結果も提示しています。
2023年は大規模言語モデルのPoC(実証実験)の1年でした。2024年に入り、生成AIのマルチモーダル化が進みました。今後は、画像や音声、動画、あるいはIoTセンサーデータをいかに活用しビジネス価値を見出すかがトレンドになると思います。
横山 :これまで多くの方がイメージする生成AIのユースケースは、問い合わせのチャットボットやビジネス文書の要約、議事録作成など業務の効率化の領域でした。今回のプロジェクトで最も大きかったのは、空調制御というハードウェアと生成AIとの融合です。今後は、IoTデバイスを通じてハードウェアから得られたデータをもとに、生成AIが機器を制御することで製品の性能や価値が高まっていく。そうした未来に近づきつつあるのかなと思います。