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空調機器の自動制御に生成AIを利用する実証実験、三菱電機が松尾研究所とソラコムと実施

阿部 欽一
2024年8月26日

三菱電機が空調機器の開発・製造において、さらなる快適性の追求と電力消費量の削減を目的に、空調機器の自動制御システムの実証実験を実施した。三菱電機 DXイノベーションセンターの澤田 友哉 氏と、同実証に共同参加した松尾研究所 AIソリューション事業部 チーフAIエンジニアの横山 敬一 氏が、「SORACOM Discovery2024」(主催:ソラコム、2024年7月)のパネルディスカッションに登壇し、取り組み内容などを紹介した。モデレーターは、ソラコム ディレクター ソリューションアーキテクトの今井 雄太 氏が務めた。(文中敬称略)

−−三菱電機は空調機器の自動制御システムの実証実験を実施しました。どのようなプロジェクトだったのでしょうか。

澤田 友哉 氏(以下、澤田) :三菱電機 DXイノベーションセンターの澤田 友哉です。2015年に三菱電機に入社し、情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市・大船)で、ディープラーニングを活用したコンピュータビジョンの研究に従事してきました。例えば、自動運転や監視カメラのアプリケーション、外観検査などのために、AI(人工知能)システムが学習するための教師データの作成を効率化するアノテーションを用いる研究などです。

写真1:三菱電機 DXイノベーションセンターの澤田 友哉 氏

 現在は、三菱電機グループ全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するための組織である「DXイノベーションセンター」(横浜市)で、生成AIを活用した業務のデータ分析、異なるデータを組み合わせるマルチモーダルシステムの構築に取り組んでいます。

マルチモーダルな生成AIを活用し最適温度を予測・制御

 今回のプロジェクトは、「部屋を最適な温度に保ちつつ、可能な限り電力消費量を削減する」ことを目的にしたものです。約30人が常に勤務しているDXイノベーションセンターのオフィスを実験場所に、2024年1月15日から3月8日まで実施しました。結果、快適性を26.3%高めながら電力消費量を47.9%削減するという効果を実証できました。

 実験では、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)センサー「Sens'it」(ソラコム製)で取得したオフィス内外の温度や電力消費などの環境データと、オフィス勤務者から収集した快適性に関するフィードバックを生成AIに入力してプロンプトを生成しました。プロンプトで大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)を動かし、出力した空調機器の最適温度に基づいて設定を自動制御し、快適性と電力使用量をモニタリングしました(図1)。

図1:三菱電機が実証した空調機器の自動制御のためのシステム概要

 生成AI基盤には、マルチモーダル対応のAIモデル「GPT-4V」(米OpenAI製)を使用し、テキストだけでなく、画像や動画、音声など異なる種類のデータを入力できる機能を活用しました。オフィスの人や設備の配置と、快適性などの関連を図示したレイアウト画像も読み込ませることでプロンプトを生成するのが特徴です。

横山 敬一 氏(以下、横山) :松尾研究所 AIソリューション事業部 チーフAIエンジニアの横山 敬一です。松尾研究所は、東京大学大学院工学系研究科松尾研究室とビジョンを共有し、産学協創のエコシステム確立しながら、先端技術の社会実装を進めています。私は、東京大学でディープラーニングに関する講師を務めながら、社会実装側として今回のプロジェクトに参加しました。

写真2:松尾研究所 AIソリューション事業部 チーフAIエンジニア 横山 敬一 氏

 本プロジェクトで難しかったのは、オフィス空間の環境データをいかに生成AIに取り込み、データを理解させて最適な予測温度の数値を出力するかというところです。

 三菱電機が蓄積してきたノウハウや知見を生かしながら、「この室温のときは、この空調機器の設定が有効」といった情報を加味して、大規模言語モデルをチューニングしました。プロンプト自体は、今のオフィス空間の室温や外の天気、混雑度、快適性などから「生成AIに最適な温度を出力しなさい」というシンプルな構造です。