- Talk
- 公共
AI駆動国家の鍵は“アジャイル・ガバナンス”、 『デジタル・ニッポン2026』が提言
「AIBB TOKYO 2026春」のパネルディスカッションより
航空業界の接客現場へのフィジカルAIが重要に
黒田 :津田さんが率いる「未来創造室」での具体的な取り組みについても教えてください。
津田 :ANAはヘリコプター2機からスタートしたベンチャー精神のある会社です。私が現在、担当している未来創造室は、社内では冗談交じりに「未来『妄想』室」とも呼ばれています(笑)。
未来創造室では年に1回、社内から事業提案を募る制度を設けています。最終選考を通過したプロジェクトに関しては、提案者が今どんな業務に就いていようとも、強制的に、その新規事業に専念できる環境を提供しています。
まずは徹底的にPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施し、仮説検証を経て社会実装、そして子会社化やM&A(企業の統合・買収)へとつなげていく仕組みです。自社内だけでの「0 → 1(ゼロイチ)」(ゼロから何かを生み出すこと)には限界もあるため、スタートアップの力も借りています。
今、私たちが注目しているのが、韓国ソウル大学発のスタートアップなどが推進している「フィジカルAI(Physical AI)」の領域です。“脳”に相当するLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の進化に対して、ついに“身体”となるロボティクスが追いつき始めた。画面の中だけで完結するAIシステムから、物理世界を認識して動くAIシステムへの転換期が今だと捉えています。
これまでアバター(遠隔操作ロボット)による移動の拡張などを進めてきました。ですが現在は、生成AI技術とフィジカル(物理空間)を掛け合わせ、機内でのサービス向上や、空港での手荷物ハンドリングといったリアルなオペレーションの自動化・最適化に、米OpenAIや米NVIDIAなどとのグローバルなパートナーシップを視野に取り組んでいます。
AI導入プロジェクトを“あら探し”に使わない
平井 :AI技術がエージェント化し、個人のパーソナルアシスタントとして機能する時代において、ANAの“接客力”というコアコンピタンスをさらに高めるためのアイデアがあります。
客室乗務員(CA)の仕事は、まさにエッセンシャルワークであり身体労働です。優れたCAが無意識に取っているプロフェッショナルな挙動や、顧客に良い印象を与える“プラスアルファの価値”は、明確なマニュアルにしにくい“暗黙知”です。
そこで、CAの皆さんに洗練されたデザインのスマートグラスを着用してもらうのはどうでしょうか。スマートグラスを通じて彼女たちが「どこを見て」「どんな音声を聴き」「どう動いたか」という視線・画像・音声データをバックヤードで蓄積し、AIモデルに学習させるのです。
津田 :それは非常に面白い試みですね。
平井 :ここで重要なのは、このプロジェクトを「減点方式の監査(あら探し)」に使わないことです。そんなことをすれば現場は疲弊し猛反発が起きます。そうではなく「ポジティブな好事例の発見(加点方式)」に特化するのです。「なぜこの人の接客は顧客満足度が高いのか」「危険を察知して事前に動けた理由は何か」をデータとして可視化し共有する。これにより組織全体の接客レベルを底上げできます。
津田 :おっしゃる通り、これまでのデータ活用は、どうしてもネガティブなリスクの排除(減点チェック)に偏りがちでした。しかし、熟練者の“気づき”や“おもてなしの機微”をデータ化し、ポジティブにフィードバックできるインフラがあれば、現場のメンバーも自ら喜んで参加したくなるはずです。ぜひ一緒にやりましょう。
人口減と高齢化を「2拠点居住」と「分割納税」で解消
津田 :もう1つの深刻な課題が、日本の人口減少と地方の衰退です。将来の人口推計を見ると、2050年に向けて地方の人口動態は厳しい現実を突きつけています。地方路線の多くが経営的に厳しい状況にある中、私たちは関係人口の拡大と、インバウンドの地方誘客を必死に進めています。
平井 :私の地元である香川県の例を見ても、都市と地方の物理的な距離を縮める航空インフラは極めて重要です。現在、高松空港の計器着陸装置を「カテゴリー3(CAT-III)」へ引き上げるプロジェクトを進めています。これが実現すれば濃霧などの悪天候でも、ほぼ100%着陸できるようになり、羽田空港並みの安定的な運航が可能になります。
しかし、地方創生において物理的な移動と同じくらい重要なのが「データのデジタルインフラ」です。現在、東京と大阪に集中しているデータセンターや国際海底ケーブルの陸揚げ局(ランディングステーション)を、北海道や四国など地方へ分散させる国家プロジェクトを進めています。
地方に高速かつ安定した通信環境が整備されれば、東京のオフィスと地方のオフィスの境界線は完全に消滅します。コストが安く、景色も良く、豊かな自然がある地方で、東京と全く同じように最先端の仕事ができるようになる。そうなれば「2拠点居住」は完全にストレスフリーな選択肢になります。
津田 :2拠点居住が進むと、次に議論になるのが税制(住民税)の問題ですよね。
平井 :その通りです。現状は「ふるさと納税」という制度で歪みを補正していますが本来は、その人が、その地域で行政サービスを受けた分だけ、滞在期間のチェックイン/チェックアウトなどのデジタルデータに基づいて正確に税金を按分する「分割納税」のような仕組みにアップデートすべきです。
現行の税制では、住民票がある自治体にしか住民税が入りません。しかし、2拠点居住者が「平日は東京、週末は地方」で過ごす場合、地方のゴミ処理や道路などの行政サービスを消費しているにもかかわらず、その地域に税金が落ちないという構造的な矛盾が生じます。新住民が税金を納めてくれるとなれば、地方自治体もインフラ整備やサービス向上に本気で取り組みますし、既存の住民との摩擦も減らせます。