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リスキリングの一歩を、組織の“仕組み”に変えた企業でDXは自走する

「CIO Japan Summit 2026」のパネルディスカッションより

阿部 欽一
2026年9月1日

変革を文化にするのは「やる気」より「仕組み」

西山 :山口さんの実体験を踏まえて、こうした個人の挑戦を組織として支える仕組みづくりについて、平塚さんのお考えをお聞かせください。

平塚 知真子(以下、平塚) :日日本10Xデザイン協会/モラロジー道徳教育財団 理事長 モラロジー経営アドバイザー 平塚 知真子です(写真3)。山口さんのような変革を自走できる人材は、実は組織の中で3〜10%程度にとどまります。多くの社員は「変わらなければ」と頭では理解していても、本音では変化を嫌うものです。だからこそ、全員を一度に動かそうとしてはいけません。大事なのは「やる気」に頼るのではなく「仕組み」で変革を起こすことです。

写真3:日本10Xデザイン協会/モラロジー道徳教育財団 理事長 モラロジー経営アドバイザーの平塚 知真子 氏

 変革のスイッチとして重要な仕掛けは(1)目的の共有、(2)現場リーダーの指名、(3)仕組みとしての学習の、3つです。目的の共有は、変革をトップダウンで進める仕掛けです。半年後、1年後に組織がどう変わるための取り組みなのかを経営側が言語化し、社員に伝えることが不可欠です。

 現場リーダーの指名は、トップが変革の旗振り役をアサインする仕掛けです。特定の1人が率先して動く姿を魅せることで、周囲は「自分たちにもできる」という具体的な手本を得て、姿勢を変えていきます。

 仕組みとしての学習は、「インプット→アウトプット→シェア」のサイクルを回す仕掛けです。例えば「動画を自由に見てほしい」と言っても誰も見ません。週に一度、10分で良いので全員で動画を見て、見た後に感想をシェアするといったサイクルの確立が、組織文化の変革を加速させる鍵だと考えています。

西山 :逆に、組織変革を阻む「壁」にはどのようなものがありますか。

平塚 :変革を阻む壁には(1)無知の壁、(2)習慣の壁の2種類があります。無知の壁は、新しい技術や仕組みで「何ができるか知らない」状態とバイアスが変革を阻むことです。習慣の壁は、「これまでのやり方が楽」というバイアスによって、新しい方法への心理的負担を避けようとすることです。

 無知の壁には情報のインプットが、習慣の壁にはルール化が有効です。例えば「3カ月間は必ずこのツールを使う」とトップが明言すれば、新しい習慣を体験する機会を得られます。情報を一元管理し、心が動く成功体験を設計していくことが重要です。

全社の業務を一番知っているのはAI技術かもしれない

西山 :個人の挑戦と、それを支える仕組みの重要性が見えてきたところです。大企業においてDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の文化を根付かせる難しさについて、どのようにお考えですか。

岸 和良(以下、岸) :住友生命保険 エグゼクティブ・フェロー デジタルAI共創オフィサーの岸 和良です(写真4)。私は20年来、社内の教育プログラム開発に携わってきました。

写真4:住友生命保険 エグゼクティブ・フェロー デジタルAI共創オフィサーの岸 和良 氏

 大企業の組織は「縦に深く、横に弱い」サイロ化が進みやすく、新しいことを学ぶ機会が構造的に少ない環境にあります。転勤してきた直後は新しい環境に適応しようと学ぶものの、慣れてしまうと学ばなくなるのが人間の性です。当社も3年前に生成AI(人工知能)技術を導入しましたが、利用率がどうしても3割を超えませんでした。いわゆる「3割の壁」と呼ばれる現象です。

 突破のきっかけは、経営層がAI活用を評価指標に組み込み、役員に課すと明言したことでした。さらに今年4月にAIオフィサーへ就任し、まず着手したのは全部門の業務フロー図を集める作業です。業務を俯瞰できなければ、どこから手を付けるべきかの優先順位も判断が付かないためです。

 集めたものをAI技術に読み込ませると、5分で全社業務の概要をまとめてくれました。これは衝撃的でした。「今、うちの会社で一番業務を知っているのはAIだ」と本気で思いましたね(笑)。業務全体を把握したうえで、トップが優先順位を付けて推進する姿勢こそ、大企業には必要だと感じています。

 特に保険会社のような歴史の長い金融機関は、業務の「型」が定まっていて、良い意味でも悪い意味でも新しいことを試す余地やマインドが少ないものです。その業務をどう変えればよいのか、本当に手探りの状態でしたので、AI技術がこうした変革の可能性を示してくれたことは、とても新鮮な出来事でした。

西山 :リスキリングを支える仕組みとして、生成AI技術の活用にどのような可能性があるとお考えですか。

:リスキリングを挫折させる最大の原因は「分からないことを聞けず、社内に教えてくれる人もいない」という状況です。動画も書籍も、そこで詰まると先に進めません。しかし生成AI技術に対しては、ずっと質問し続けられるばかりか、待ち時間はゼロで、何度質問しても嫌な顔一つしません。教育のための最高のツールだと本気で考えています。