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プラス、災害時に“顧客対応の生命線”になるコンタクトセンターは決して落ちてはいけない
企業の事業戦略として顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)の向上が重要になるなか、顧客接点としてのコンタクトセンターの改善に着手する企業が増えている。プラスも、その1社。2019年6月に千葉県・幕張で開催されたAWS(Amazon Web Services)の国内最大イベント「AWS Summit Tokyo」の事例セッションに登壇し、プラスのコンタクトセンター戦略やクラウド移行の経緯を語った。
オフィス向け文具や事務用品、家具の大手メーカーであるプラス(PLUS)。グループの中核ともいえる通販・物流事業を担うのが社内カンパニーのジョインテックスカンパニーだ。同カンパニーは、オフィス向け事務用品だけでなく、介護施設に専門資材を提供する事業なども手掛けている。
プラスの通販サービスの特徴は2つある。1つは、単にネットで注文を受けるだけでなく、教育現場や介護現場など、顧客の業務を理解した専門スタッフが営業に同行し、現場の課題を直接引き出して、それに応える資材や商品を提供する点だ。
もう1つは、同社が「攻めるCRM(顧客関係管理)」と呼ぶコンタクトセンター機能の強化に向けた権限移譲である。一般にB2B(企業間)のコールセンターにおけるオペレーターの主業務は、顧客を担当部署へ取り次ぐこと。だが同社のコンタクトセンター部員は、「自らの判断で顧客の質問に答え、新規顧客の登録や注文処理など、通常のサポート領域を超えた業務への裁量権を持つ。これが、迅速で正確な顧客対応を可能にし、売り上げの向上につながっている」と山口氏は強調する(写真1)。
基幹系での導入経験からコンタクトセンターもクラウドを前提に
そのように重要な役割を担う同社のコンタクトセンターのシステムだが、2018年2月に更新時期を迎え、2016年ごろから新システムの検討に入った。
更新に際して重視した点は大きく2つ。1つはシステムの拡張が容易なこと。もう1つは災害時でもコンタクトセンターが稼働を続けられることだった。
なかでもBCP(事業継続計画)の強化は全社ミッションだった。「コンタクトセンターは、万一の災害時にも顧客の状況をいち早く把握し、スピーディーな支援のための中核機能を担っている。それだけにDR(災害復旧機能)は、なんとしても高めておきたいという考えがあった」(山口氏)。
だが、従来のオンプレミスのシステムにおける災害対策では、システムを遠隔地と二重に持つ必要があり膨大なコストがかかる。そのため、クラウド方式のコンタクトセンター導入を前提に検討に入った。当時プラスでは、業務の効率化や業容拡大に対応するため、全社的にクラウドの活用を積極的に進めていたことが背景にある。
プラスは2014年からがAWSの利用を開始している。最初にEC(電子商取引)サイトの一部からスタートし、段階的に利用を拡大。2016年には在庫管理、受発注にかかわる基幹系システムを全面的にAWSに移行した。山口氏は、「基幹系のクラウド化によって、コストの大幅な削減、パフォーマンス向上、そして開発期間の短さを実感したことが、その後のAWS利用を加速させた」と振り返る。
検討中にAWSが「Amazon Connect」を発表
次期コンタクトセンターの検討時期に当たる2016年末、AWS本社が年次イベント「re:Invent」で、コンタクトセンターのクラウドサービス「Amazon Connect」を発表した。それを知った山口氏をはじめとしたチームは即座にAmazon Connect導入に向けた検討を開始した。
山口氏自身、手始めに米バージニア州のAWSサーバーで公開されていたAmazon Connectにログインし、機能をチェックした。「試しに、電話の発信元の市外局番から地域を割り出して最寄りの倉庫にある在庫を自動的に返すプログラムを組んでみると、これがあっという間に動いた。半信半疑で始めたが、どんどん面白くなってしまった」(山口氏)という。
またコールセンターでは音声の遅延があれば致命的である。クラウドということもあり、その点も入念に確認したが「海外のリージョンでのテストでも、ほとんど遅延がなかったのには驚いた」と山口氏は話す。
懸案の災害対策機能も、自前でシステムを作る場合や既存のパッケージを二重化する場合などと比較して、Amazon Connectは「ソフトウェアの各機能が異なるリージョン間で連携して稼働する『マルチAZ配置』により耐障害性を高めるなど、システムの基本的な構成としてDR能力が高い」(山口氏)と評価した。