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ホンダの「internavi」、410万台の車が生み出す走行データの社会的価値
地元野菜のプロモーションにも活用
Internaviのデータには、車の緯度と経度、それにタイムスタンプ(時刻情報)がある。福森氏は、「これら3つがあるだけでも、いろいろなことがわかる」と話す。具体的には、エンジンをかければ出発地点がわかるし、位置情報の変動を微分すれば、速度や急制動も把握できるなどだ。
こうした情報を利用している例の1つに「地元の野菜を購入している人の行動を知りたい」という観光情報のサポートがある。千葉県・房総半島の先端部分で開かれた朝市を対象にしたサポートでは、朝一に向かった車のエンジンの始動地点は地元が多く、県外から向かった人は東京湾の「海ほたる」や県北寄りの「市原サービスエリア」で休憩を取っていることがわかった(写真5)。
福森氏は「これらの結果から、地元の野菜を観光客に届けたいのなら販売場所を検討するなど店舗オペレーションを検討できる。プロモーションを考えれば大勢が立ち寄る場所にポスターを掲示するといった提案も可能になる」と紹介する。
渋滞対策にはリアルタイム情報を他社の車にも提供
渋滞対策にも利用されている。福森氏は「渋滞問題の解決にはリアルタイム情報が重要だ」と強調する。「通勤前に『今日はこの道が空いている』という情報をカーナビにセットすることはない。加えて渋滞情報は、弊社ユーザーだけでなく、近隣を走行するすべての自動車に伝えないと意味がない」(同)からだ。
たとえば、栃木県にある本田技術研究所と最寄りの宇都宮駅の間は、「鬼怒通り」「国道123号」「国道4号」「テクノ街道」の4つの経路を利用できる。朝の通勤時は渋滞が発生するが、時間帯別に分析してみると、両者間は早ければ30分、混んでいれば90分かかることがわかった(写真6)。
ただ、テクノ街道を利用した車は時間がかからず、ここが抜け道だと知っている人が使っているようだった。そこで道路脇に、簡便に設置できる表示装置を設置し、そこにinternaviの情報を配信できるようにした。
福森氏は、「高速道路にあるような表示器は1つで数千万円もかかる。これに対し表示装置を置くだけなら一般道でも対応できるため、花火や雪・工事など一時的な渋滞時にも、ベターな選択が何かという情報を提供できる」と強調する。
100超の企業や自治体が自動車データを活用中
種々の社会的価値を生み出しているinternaviのデータだが、通行実績サービスのためのシステムには「負荷分散サーバーと、WEBサーバー、通行実績生成サーバー、ストレージぐらいしか使っていない」と福森氏は明かす(写真7)。具体的には、各車から常時送られてくる位置情報データは一旦、AWS上に蓄積し、原則として夜間バッチ処理により各種システムとの連携を図っている。
「データ量はどうしても多くなる。サーバーが停止したり、コストが掛かる点は事業部門としてはネックだが、一部の処理に『Athena』(AWSのストレージサービスである「S3」内のデータをSQLを使って分析できるサーバーレスサービス)を適用することで、処理時間を短縮しコストも8分の1程度に抑えられた」と福森氏は話す。
ただ「重い処理の場合、タイミングによってはエラーが発生することがある。ノウハウの蓄積が課題だ」(同)ともいう。
上述した例のほかにも、急ブレーキ情報を街路樹の剪定や速度抑制の注意喚起など道路の管理状況の改善状況に利用したり、到着時間の予測機能をタクシーの配車アプリに応用したりと、internaviのデータは、100を超える企業や自治体に利用されている。
福森氏は、「移動に関わる社会問題をinternaviのデータで解決できないかと常に考えている。そのためにも、いろいろな会社と連携しデータを役立てたい」と今後の取り組みへの意気込みを見せた。
企業/組織名 | 本田技研工業 |
業種 | 製造 |
地域 | |
課題 | カーナビサービスなどを提供する「internavi」に蓄積される410万台(2019年3月時点)が生み出すビッグデータを新たな価値に変えたい |
解決の仕組み | データを蓄積・分析したり他のデータと組み合わせることで、災害復旧や地域プロモーション、渋滞解消などに役立てる |
推進母体/体制 | 本田技研工業、AWS |
活用しているデータ | ホンダ製のコネクテッドカーから得られる走行データ |
採用している製品/サービス/技術 | クラウドサービス「AWS」 |
稼働時期 | 1998年7月(アコードを対象にした最初のサービス開始時) |