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カブドットコム証券、顧客接点強化に向けITの自前主義を捨てSaaSに邁進中

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2019年10月17日

ネット証券大手のカブドットコム証券は、顧客接点を強化するためCRM(顧客関係管理)システムの刷新に取り組んでいる。マーケティング部門と顧客対応部門のシステムを、これまでの自社開発からSaaS(Software as a Service)の利用へと切り替える。同社のリテール営業部長 兼 営業推進グループ長の小松 圭一氏が2019年9月に開催された「Salesforce World Tour Tokyo」(主催:セールスフォース・ドットコム)に登壇し、プロジェクトの進捗とこれからを説明した。

 カブドットコム証券は、創業メンバーであり社長の齋藤 正勝 氏がSE(システムエンジニア)出身ということもあり、いくつもの新機能を発表してきた技術者集団である。大手ネット証券大手の中で唯一取引システムを内製化し、常に最先端の技術を取り入れてきた。業界で初めてインメモリーデータベースを採用した高速取引を実現したり、AI(人工知能)を用いた株価チャートの分析サービスを提供したりである。

 同社の自社開発主義はバックオフィスのシステムにも浸透しており、各部署では独自に作り込んだシステムが稼働してきた。だがそれが最近は、「顧客情報を社内で共有し、マーケティングに活用する際に大きな問題になっていた」とリテール営業部長 兼 営業推進グループ長の小松 圭一氏は語る(写真1)。

写真1:カブドットコム証券の小松 圭一 リテール営業部長 兼 営業推進グループ長

 顧客データは、基幹システムからマーケティング用のDWH(データウェアハウス)に取り込み、そこからコールセンターやメールマーケティングのシステムにつないでいた。だが「各部署がベストを尽くしてきた分、作り込み過ぎが柔軟なデータ共有を阻害していることに気がついた」(小松氏)という(図1)。

図1:自社開発主義時代のマーケティング用DWHを核にした顧客情報の利用環境

 小松氏によれば、同社の自社開発主義は「先進的というイメージとは逆に、内部のシステムは非常に属人的な状態だった」。各部署が必要なデータを扱うシステムを構築したため、マーケティング関連だけで8つの情報ソースができ上がっていた。他にExcelのマクロなどもあり、「コールセンターでは常時13〜15もの情報ソースを参照し顧客対応しなければならない状態に陥っていた。当然、顧客の情報確認には時間がかかり、サービス品質が悪かった」(小松氏)

 そこで顧客情報の一本化と各部署が連携した顧客体験を実現するために、CRM(顧客菅家管理)のSaaS(Software as a Service)であるSalesforceを基盤にしたシステムに移行すること決めた。

 2017年10月に検討を開始し、翌2018年前半は社内調整に費やし7月から開発に着手した。同年12月にマーケティングオートメーションサービス「Marketing Cloud」の利用を開始し、2019年2月からカスタマーサービス用途の「Service Cloud」の利用も開始した。現在は、クラウド関連開発を手がけるテラスカイなどとSalesforceの導入と改修を進めている。

 これらの取り組みにより、コールセンターのオペレーターが扱う情報ソースは半分ほどに減少した。それでもシステム全体の中でSalesforceが導入できている部分はまだ一部に過ぎない(図2)。

図2:2019年9月時点のSalesforceの利用状況。赤い帯の部分6カ所は未導入