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海上保安庁、船舶の衝突リスクの早期発見にAI予測が有効と確認

DIGITAL X 編集部
2020年5月14日

海上保安庁は、船舶の衝突リスクをAI(人工知能)を使って予測する実証実験を実施し、衝突リスクの早期発見に有効と確認した。実験は2019年12月6日から2020年3月23日かけて実施した。技術を提供した富士通が2020年4月15日に発表した。

 海上保安庁は、舶の衝突リスクの早期発見に向けて、交通量が多い航路ではレーダーと船舶自動識別装置(AIS:Automatic Identification System)を組み合わせて運用している。しかし、多数の船舶の動きの認知・予測は難しく、危険回避の情報を、どの船舶に、どのタイミングで提供するかの判断は運用管制官の経験や技量に依存している。

 今回の実証実験では、東京湾の海上交通管制を担う海上保安庁の東京湾海上交通センター(横浜市)の訓練環境において、AI(人工知能)を使って衝突リスクの検知、および衝突リスクが集中するエリアの予測を検証。併せて運用管制官の技量の平準化にAIが有効かどうかも検証した(図1)。

図1:船舶の衝突リスク予測技術のイメージ(左)と写真1:東京湾海上交通センター運用管制官による評価の様子

 具体的には、現職の運用管制官6人が、過去に発生したヒヤリハット事例を再現した擬似オペレーションを2つの手法で実行し、監視するエリアや運用管制官の経験や技量の違いなど36のパターンで分析した。

 手法の1つは、運用管制官が自身の経験や技量に基づいて船舶の動きを予測し危険性を判断する従来の業務手法。もう1つは、過去のAISデータを基にAIが導き出したリスク情報を運用管制官が確認しながら管制する業務手法である

 2つの手法を分析した結果、AIを用いた管制業務手法は、従来手法に比べて注意喚起を警告するタイミングが平均して2分ほど早くなり、衝突リスクのある船舶の早期発見に効果があることが確認できた。

 衝突リスクが高まった船舶に対する危険回避を勧告する回数は、AIを用いた手法では従来手法の2倍近くに増加した。より積極的かつ予防的な管制が実行でき海上交通の安全を強化する可能性も確認した。

 さらに、AIでは、衝突リスクという定性的な状態を運用管制官が定量的に認識できるため、経験・技量に依存せず一定レベルで業務が遂行できた。なかでも経験年数が浅い新人の運用管制官に大きな効果があった。新人でもベテランと同等の管制行動が可能になるケースもあり、海上保安庁は運用管制官の技量の平準化にも効果があると見ている。

 検証に用いたのは、富士通研究所が開発したAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」を用いた船舶衝突リスク予測技術。富士通はシンガポール海事港湾庁とも同技術を使った船舶の衝突リスク予測を検証してもいる。

 海上保安庁は今後、より複雑な交通状況における衝突リスク予測技術の検証と精度の向上に取り組み、実用化を目指す。

 なお運輸安全委員会によれば、2009年から2019年に発生した船舶衝突事故は日本だけで2863件、年間平均286件が発生している。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名海上保安庁
業種公共
地域横浜市(東京湾海上交通センター)
課題多数の船舶の動きの認知・予測は難しく、危険回避に向けた管制の判断は運用管制官の経験や技量に依存している
解決の仕組みAIを使った船舶の衝突リスク予測技術を使って船舶の衝突リスクを早期発見したり、リスクの集中エリアを予測したりする。結果を運用管制官に定量的に提供することで技量の平準化を図る
推進母体/体制海上保安庁、富士通、富士通研究所
活用しているデータレーダーなどによる船舶の運航状況を示すデータ
採用している製品/サービス/技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」を用いた船舶衝突リスク予測技術(富士通研究所が開発)
稼働時期2019年12月6日から2020年3月23日