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医療情報の広域連携が進む愛知県、コロナ禍の医療現場での地域連携を可能に

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年5月25日

遠隔診断のプラットフォームにも

 広域医療連携の基盤である「IIJ電子@連絡帳」は、医療機関を中心に、行政や訪問介護ステーションなど地域の包括ケアを担う事業者が情報を共有するための基盤だ。愛知県を含め全国61の区市町村で1万4000人以上の医療関係者や公共機関の職員が利用している。

 電子@連絡帳では、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のグループ機能のように、患者ごとにスレッドを立ち上げ、医療や介護関係者、行政や法律の専門家などの関係者が情報を書き込んでいく。

 患者の疾病や投薬の記録、バイタル情報などに加え、患者自身が介護スタッフなどに伝えた日々の暮らしぶりなども共有することで、別の病院の医師であっても患者の状態を把握しやすくなる。

 また行政の専門職が、いつ患者宅を訪問したかといった記録も共有することで、医師が担当者へ患者の様子を確認することもできる。国から医療機関への通知・連絡を共有するといった利用方法もある。

 スレッドでは文字情報だけでなく、写真や動画を共有することも可能だ。IIJ公共システム事業部 ヘルスケア事業推進部 シニアコンサルタントの小椋 大嗣 氏は「たとえば、訪問看護師が患者宅で患部の状態を撮影し、その場でアップロードすれば、かかりつけ医が遠隔診断できる」とする(図3)。

図3:「IIJ電子@連絡帳」による情報共有の例

 個人の医療情報という機微なデータを扱うため当然、セキュリティを高めている。基盤への接続は電子認証により、認証が取れない端末からは閲覧・入力ができない。データは、東日本と西日本の2つのリージョンに冗長構成をもって保存し、大規模災害時にもデータが消失しない構成を採っている。

ボトムアップで医療・介護の情報共有基盤の利用を継続

 ただ電子@連絡帳の利用実態を全国でみると、医療施設間での画像データの共有などが全体の3分の2を占めている。その中で愛知県では、「在宅医療・介護連携を行っているシステム数は愛知県がダントツに多く、全国のおよそ半数を占めている」(野田氏)という。

 なぜ愛知県では、医療機関と地域行政との情報共有基盤が発展してきたのだろうか。その理由を野田氏は次のように語る。

 「過去、全国の自治体では『地域医療介護総合確保基金』などを用いて地域の医療情報網の導入を進めてきた。しかし多くのネットワークが、基金が尽きたところで利用が止まってしまったとみている。だが愛知県では、基金を使い切った後も自治体が運営費用を負担し、利用を継続したことが現在の拡大につながっている」

 ただ自治体ごとの予算では、共有基盤の運用も自治体単位になってしまい行政区を越えた連携が難しくなる。そこで、次の段階として協定による広域連携が動き出した。野田氏は、「この情報基盤は愛知県がトップダウンで決めたことでない。各地域の医師会の判断で導入が始まり広がってきた。その効果を見た自治体が予算を投入したという経緯が画期的だと思う」と強調する。

 広域連携による用途の拡大を受け、電子@連絡帳は2020年6月に大幅にバージョンアップを図る予定だ(図4)。災害対策や救急医療への対応も強化する。IIJとしては愛知県内の増勢を皮切りに、全国で2021年度末までに電子@連絡帳の利用自治体数を300にする目標を掲げる。

図4:「IIJ電子@連絡帳」のバージョンアップなどを含む今後の予定

 小椋氏は、「ポストコロナ時代の新しい生活様式では、介護支援のあり方も変わると理解している。IIJではホームIoT(Internet of Things:モノのインターネット)センサーなどを使い、高齢者の在宅介護を支えるインフラづくりとともに、地域の医療介護現場の情報共有を今後も支援していく」と話す。

 医療はもちろん、介護や生活支援サービスは“止まってはいけない”社会インフラだ。医療体制の維持には、地域の医療機関と介護施設、行政などが連携することが今後、ますます重要になっていく。地域のサービス提供者の負担を減らし全体で支え合うためには、患者情報のデジタルによる広域共有基盤が機能する必要があるだろう。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名愛知県下の35行政
業種医療・健康
地域愛知県下
課題住民の生活圏と各医療圏の医療機関の配置などを考えれば、行政区をまたがっての医療情報の連携が必要になっている
解決の仕組み医療・介護関連情報を共有するための情報基盤を広域に連携させる
推進母体/体制愛知県医師会、自治体
活用しているデータ患者の疾病や投薬の記録、バイタル情報などに加え、患者自身が介護スタッフなどに伝えた日々の暮らしぶりなど
採用している製品/サービス/技術情報共有基盤の「IIJ電子@連絡帳サービス」(IIJ製)
稼働時期2020年4月1日(35行政による広域連携協定の締結時)、2020年10月には46行政に増える予定