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やまや、辛子明太子の製造ラインを自動化する「たらこAI検査」を2020年秋に試験導入へ

池田 真也(DIGITAL X 編集部)
2020年7月1日

辛子明太子などを製造・販売するやまやコミュニケーションズは、明太子の製造ラインの自動化に向けた試作機を2020年秋から稼働させる。そのための、たらこの品質を検査するAI(人工知能)の開発を2018年から取り組んできた。デジタル戦略室の福間 直人 氏が2020年6月18日に開催された「IBM Data and AI Virtual Forum」(主催:日本IBM)に登壇し、開発の推移などを説明。開発を支援した日本IBMの山上 円佳 氏が、AIの詳細を解説した。

熟練工の作業ノウハウを自動化する

 やまやコミュニケーションズ(以下、やまや)は、これまで熟練工の経験に頼っていた、辛子明太子の材料である、たらこの判別作業の自動化を目指している。生産現場の人手不足や技術継承などの課題を解決するためだ。

 2020年秋から、たらこの異物検出やグレード判定を、熟練工に近いレベルで実現する試作機の運用を開始する(図1)。

図1:やまやコミュニケーションが開発する、たらこ判別の試作機の実装イメージ

 試験機に搭載するAIモデルを使った「異物検査」と「グレード判定」については、2020年4月からの実証実験を続けてきた。

 やまやが目指したのは、「習うよりも慣れろ」と属人化していた熟練工の選別スキルを自動化すること。同社デジタル戦略室の福間 直人 氏は、「たらこは天然の水産物であり、作業者によって判断基準に差異が出てしまう。実用できるのか不安だったが『とにかくやってみる』の精神でデジタル戦略室を設立し、新技術を検証できる環境を整えた」と2018年8月のプロジェクト発足当時を振り返る。

 実際、AIモデル開発では、熟練工の経験という明文化されていない無形の判断基準をAIモデルに落とし込むことに苦労した。「なぜ間違ったのかを検証しながら、自分たちがどう判断していたのか繰り返し学習させ、精度を向上させた」(福間氏)。結果実験では、「人間による判断と同等かそれ以上の精度を達成した」(同)という(図2)。

図2:実証実験ではAIが人間と同レベルの精度でたらこを判別可能になった

AIをビジネス活用するための3つのポイント

 AIモデルの開発には、IBMのAI開発基盤「IBM Watson Machine Learning Community Edition」を用いた。開発に協力した日本IBM ディープラーニング・システムズ・コンピテンシー・センター シニアITスペシャリストの山上円佳 氏は、「AIは魔法のツールではない。解決したい問題を見極めてプロジェクトを進めることが重要だ」と強調する。

 やまやのプロジェクトにおいても、(1)データ、(2)メンバー、(3)ソリューション、3つのポイントを意識し進めてきた。

 データについては、たらこの色や形を判断するには、属人化している基準や無形の基準をAIが学習できるよう明確にする必要がある。「AIは、学習していないパターンやバリエーション、異なる種類のデータを予測しようとすると判断を間違える可能性がある」(山上氏)からだ。

 どのデータを取得して学習させるかの計画も策定する。そのためには「過去の傾向を分析するなどサンプルデータを取得し、学習データの種類やバリエーションを検討する必要がある」(山上氏)という。

 AIモデルは開発して終わりではない。「使いながらデータの追加や学習を繰り返し、精度を改善しながら運用するには、内製化に向けた体制づくりを意識することが重要だ」と山上氏は指摘する。

 やまやの場合、業務知識を有するメンバーと、ITエンジニアによるAI推進メンバーによる体制を組んで開発を進めた。現場を知るメンバーを加えることで、「課題を発見しながら、継続してAIモデルを開発・運用できる」(山上氏)からである。

 AIモデルが開発できれば、そのAIモデルが解決できるタスクに分解する必要がある。AIで解決したい項目を明確にし、そのために必要な機能や道具を揃えていく(図3)。

図3:AIが解決できるタスクまで分解する

 その上で、技術的懸念を検討したり、解決策を練ったりする。この段階でデータを追加しても精度が改善されない場合は、「暗黙知の抜け漏れを見直すチャンスでもある」と山上氏は話す。

 やまやは今後、2020年秋に稼働させる試作機による検証を経て、2021年に建設予定の新工場では完全自動化を図り、生産コストの削減や省人化を目指す。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名やまやコミュニケーションズ
業種製造
地域福岡市(本社)
課題辛子明太子の新工場において完全自動化を図りたい
解決の仕組み原料である、たらこの異物検出やグレード判定にAIを活用し判別作業を自動化する
推進母体/体制やまやコミュニケーションズ、日本IBM
活用しているデータたらこの画像データ
採用している製品/サービス/技術AI開発基盤「Watson Machine Learning Community Edition」(日本IBM製)
稼働時期2020年秋(試作機の運用開始時期。2021年稼働予定の新工場で本番稼働させる計画)