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水田水管理ICT活用コンソーシアム、IoTによる水管理で作業量の8割削減も

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2020年7月3日

給水弁は既存バルブへの取り付け型にし安価に

 一方、自動給水弁「paditch Valve 01」は、2013年設立のIoTベンチャー企業、笑農和が開発した。実証実験では、すでに展開していたオープン水路型の遠隔サービス「paditch(パディッチ)」のノウハウを生かし、自動給水弁と制御用アプリケーション「paditch cockpit(パディッチコックピット)」を用意した。

 paditch Valve 01は、既設バルブに設置するアタッチメント式の本体と、給水弁を遠隔操作するための通信ボックスからなり、電池で1シーズン駆動する(図2)。既設バルブとしては現在、2社の製品に対応している。

図2:自動給水弁「paditch Valve 01」は既存バルブに取り付けることで設備投資を抑えた

 paditch cockpitをリリースできたのは2020年4月。3年間の試作期間を通じて、農業経営体が必要な機能を抽出し実装した。グラフの表示形式なども、フィードバックを得ながら改善したとする(図3)。

図3:「paditch cockpit」のグラフ表示の例

水管理のLPWAネットワークを防災など多目的に活用も

 静岡県は今回、水管理システムの普及に向けたアンケート調査も実施した。「スマート農業技術で米作りのどの部分を改善したいか」という問いに県内19の経営体が水管理を挙げ、6割が自動給水弁と水田センサーの導入を考えていた。

 ただ、導入運営コストを「導入の不安(課題)」とする声が最も多かった。それに「いたずら盗難」「修理保守対応」が続く。コンソーシアムが開発した水田センサーと自動給水弁は、それぞれ1台8万円程度になるように設計。通信コストも1台当たり年間100円程度だとする。

 他方で、用排水路を管理する水利組合と地域の理解、給水弁や水路の老朽化、集積・集約の遅れなど、水管理システムの機器性能の向上や経営体の努力だけでは解決できない不安もあることがわかったという。

 2020年度以降は、新たに三島市を実験地域に加え、水管理システムの検証を続ける。また、袋井市浅羽地域では計6人の農業経営体が参加して、1000ヘクタールのエリアに4つの無線基地局を設置し、約60ヘクタールの圃場に自動給水弁と水田センサーを合わせて300台以上設置する。

 さらに、水源から圃場までを連携させた一体的な水管理システムの実現にも取り組む。圃場全体の水の状況を中央管理所が把握し、給水時間を分散させるなどして、より効率的な水の管理を目指す(図4)。

図4:圃場のみならず、水管理システムの活用効果を検証していく

 並行して静岡県では今後、実証実験で設置したLoRaWan基地局を活用し、水田の排水管理や水田水の管理、用排水路・河川の水位の観測、鳥獣害対策や、茶園やメロンの栽培管理などにも応用していく考えだ。豪雨の際には、水田の給水側だけでなく排水側も遠隔制御するなど、防災面での活用も検討する。

 静岡県の生熊氏は「県としては基盤整備事業などを活用し、施設の更新整備や集積集約化を進めると共に、土地改良区や水利組合などにシステム導入のメリットを提示し、普及を後押したい。経営規模の拡大、高品質化、多収量化により当県の農業競争力の強化を期待する」と話す。

 またIIJは、「水管理プラットフォーム」の開発も進める。水管理に必要な他社のセンサーやアプリケーションを結合しデータの共通化を図るのが目的だ。農研機構が持つ農業データ連携基盤「WAGURI」とも連携する。農業IoTの仕組みは、1社1規格など独自仕様になりがちだが、水管理プラットフォームではオープンな仕組みの実現を目指す。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名水田水管理ICT活用コンソーシアム
業種農林水産
地域静岡県磐田市、袋井市
課題水田の水管理にかかる作業負担を減らし、農業経営体の人手不足を解決したい
解決の仕組み水田の水位を計測するセンサーと自動給水弁、計測したデータを無線送信する水管理システムを開発。遠隔で水位を計測し、給水弁を制御する
推進母体/体制静岡県経済産業部農地局、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、静岡県内の農業経営体、笑農和、インターネットイニシアティブ(IIJ)
活用しているデータ水位・水温のデータなど
採用している製品/サービス/技術水田センサー「LP-01」、LoRaWAN基地局、自動給水弁「paditch Valve 01」、遠隔操作アプリ「paditch cockpit」
稼働時期2017年