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水田水管理ICT活用コンソーシアム、IoTによる水管理で作業量の8割削減も

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2020年7月3日

稲作における労働負担になっている水の管理作業の効率化を目指す水田水管理ICT活用コンソーシアムが、2017年から取り組んできたIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を使った水管理の報告会を2020年6月10日に開催した。作業時間を最大で約8割短縮できるケースもあったという。

 「水田水管理ICT活用コンソーシアム」は、稲作において重要な水の管理に伴う課題を解決するために結成された組織。静岡県経済産業部農地局や、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、稲作に取り組む農業経営体、および農業のデジタル化取り組む笑農和やインターネットイニシアティブ(IIJ)らが参画する。

 同コンソーシアムは、農林水産省が2016(平成28)年度に募集した「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」における「低コストで省力的な水管理を可能とする水田センサーなどの開発」の研究課題に応募・採択され、その課題に取り組んできた。

 実証実験の場になった静岡県では農業従事者の減少が続いている。一方で、1人当たりの農地面積が急増加している。

 静岡県 経済産業部 農地局 主査の生熊 進吾 氏は、「農業経営体へ農地が集中し、その傾向は強まっている。さらなる大規模化に向けては、稲作に不可欠な水の管理における省力化が不可欠だ。それをシステムで支援したいが、導入に向けては低価格かつ操作がしやすくなければならない」と訴える。

5つの農業経営体に水田センサー300台、自動給水弁100台を設置

 目標達成に向けコンソーシアムは、水田センサーや自動給水弁、無線基地局を開発しながら実証実験に取り組んだ。静岡県の磐田市と袋井市にある5つの農業経営体が持つ約75ヘクタール(1ヘクタールは1万平方キロメートル)の圃場に、水田センサー300台、自動給水弁100台を設置した(図1)。IIJのIoTビジネス事業部 副事業部長の齋藤 透 氏は「当時の実証実験としては国内最大級の規模」という。

図1:水田水管理ICT活用コンソーシアムが実証実験で開発・実装した水管理システムの概要

 実験の結果、参加した農業経営体の1社では、自動給水弁を37カ所に設置したところ、水を管理するために巡回する移動距離が、従来の12.8キロメートルが6.6キロメートルにまで削減できた。6月と7月の2カ月に水の管理に費やした時間も、システム導入以前の2017年と比較して約7割削減できた。参加企業の中には約8割まで削減できた企業体もある。

 実験に参加した、Aプランニングの増田 雄一 氏は、「以前は84カ所に分散する26ヘクタールの水田を朝と夕の2回、それぞれ1時間かけて見回っていた。システム導入により水田に行く回数が減り、時間的な余裕ができた」と話す。

 同じく実験へ参加した農業生産法人 農健の砂川 寛治 氏は、「早朝や夜遅くの水回りは体力的に厳しかった。システム導入により水位がスマートフォン用アプリケーションで確認できるため、必要なときに必要な場所に行けば良くなった」と語る。

 農健は今後、秋に収穫した米の品質や収量のデータと、その年の気象やアプリに記録される自身の水管理のデータを分析し、「翌年以降の水管理に生かしたい」(砂川氏)と意欲を覗かせる。

 静岡県の生熊氏は、「給水管理は降水日数や降水量に左右されるため年によって変動はあるが、水管理にかかる時間を2分の1程度削減するという研究目標は達成できたと考えている」と話す。

 ただ、自動給水弁の設置については、「圃場の分散状況や圃場間の距離などから、設置数の増大と移動距離の減少は単純には比例しないことがわかった」(生熊氏)という。効果を最大化できる見回りルートや設置数の検討を続ける。

センサーデータはLoRaWANの基地局経由で送信

 実証のための水管理システムは、圃場に水田センサー「LP-01」と自動給水弁を設置し、LPWA(Low Power Wide Area)の通信規格「LoRaWAN」の基地局経由でクラウドに接続することで、水位・水温データを収集し、自動給水弁の開閉を遠隔地から制御する。「3年間かけて開発し、本年度から事業化にたどり着いた」(IIJの齋藤氏)という。

 水田センサーのLP-01とLoRaWAN基地局の開発は、IIJが担当した。LP-01は水位・水温を30分ごとに測定する。センサーボックスと通信ボックスからなり、単三電池2本で1シーズン稼働する。齋藤氏は「構造をシンプルにすることで低コスト化を図った」とする。

 LoRaWanは、実験では920MHz帯を利用し、周辺1~2キロメートルをカバーした。LoRaWanを採用した最大の理由は運用コスト。センサーごとにSIMカードを搭載する仕組みでは、センサー1台ごとに月額利用料が発生する。LoRaWanであれば「1枚もしくは数枚のSIMで圃場をカバーできる」(齋藤氏)からだ。