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第一生命保険、新サービスの開発力向上に向け基幹システムをハイブリッドクラウド環境に

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年7月13日

単純な「リフト&シフト」で終わらせない

 新しい基幹システムの中心に位置するAzure上に構築するシステムは、大きく3層に分かれる。太田氏は「最も大事なのは、一番下層の運用管理やセキュリティを充足させること」だと強調する。

 「これまでは、クラウドを単品で使い、他システムとはバラバラな仕組みでつないでいたためにデータの整合性がとれなかったり、運用の負荷が高くなったりの弊害が出ていた。新しい運用管理機能は、マイクロソフトの支援を受けて計画的に構築している」(太田氏)とする。

 その上に位置する業務ファンクション層は、「保険業務の中核を担う契約や顧客管理、料率計算などを担う部分」(太田氏)だ。「ここは単純な『リフト&シフト』をせず、クラウドのメリットをしっかり享受するためにPaaS(Platform as a Serivice)化することが重要だと考えている」(同)。各機能の保守や更新のタイミングに合わせて、数年がかりで順次クラウドに移行していく計画だ。

 そして、最上位にあるのがデータ分析層である。全部門から集めた情報を一元管理して分析することで、最適なサービスを提供していく。

 太田氏は、「分析基盤の構築と併せて、データサイエンティストを集めた専門組織を立ち上げた。生命保険会社なので、顧客に関するさまざまなデータを保有している。最新の分析技術を使って新たなサービスを創造していきたい」と意気込む。

金融庁が支援するクラウド基幹システム

 第一生命保険における基幹システムのクラウド化は、金融庁が2020年3月26日に設置した、「基幹系システム・フロントランナー・サポートハブ」の支援を受けている。金融機関の先進的な基幹システムに関する取り組みを支援する制度だ。

 第一生命保険は2020年6月30日、保険業界では初の支援先に選ばれた。そのメリットについて太田氏は、「金融庁の支援を直接仰ぐことで、セキュアで法令に準拠したシステムが開発できる。たとえば2020年6月12日に改正個人情報保護法が公布されたが、いち早く確実に対応できた」と説明する。

 金融庁と第一生命保険の間で整理したモニタリング上のガバナンスやリスク管理の論点は、金融庁のサイトに随時公開されるという。「当社と同じコンプライアンスやガバナンスの悩みを持っている企業にとって参考になる情報だと思う」と太田氏は話す。

 また第一生命のハイブリッドクラウド構築を支援する日本マイクロソフトのエンタープライズ事業本部 金融サービス営業統括本部 業務執行役員統括本部長である綱田 和功 氏は、「IT、ルール・ガバナンス、人材の3つの柱を必要とする金融機関は、金融機関向けの業務改革フレームワーク『Financial grade Cloud Fundamentals(FgCF)』を利用するべきだ」と話す(図3)。

図3:マルチクラウド活用を見据えた金融業界向けのクラウド活用フレームワーク「Financial grade Cloud Fundamentals」

 FgCFは、セキュアなリモート環境での開発業務にも有効とする。金融機関が特に重視するゼロトラストモデルに対し、FgCFでは「単純にサーバー環境をクラウド化するのではなく、IT環境全体をセキュアにクラウド移行でき、ゼロトラストモデルを実現する基盤になる」(綱田氏)という。

 第一生命は今後、FgCFを活用して構築したシステムを国内のグループ企業のための業務基盤として使っていく計画だ。他にも、いくつかの金融機関がFgCFを適用したクラウドの導入を計画しているという。

 FgCFはこれまで、日本マイクロソフトのパートナー経由で提供されてきた。現在、そのコンテンツが拡充されており、近くマイクロソフトのWEBサイト「Azure Base』で全体像が公開される予定である。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名第一生命保険
業種金融・保険
地域東京都千代田区(本店)
課題保険サービスの開発速度や運用効率を向上させたい
解決の仕組み複雑化していた基幹システムをハイブリッドクラウド環境に移行する
推進母体/体制第一生命保険、日本マイクロソフト
活用しているデータ基幹システムの顧客情報や契約情報など
採用している製品/サービス/技術「Microsoft Azure」および「Financial grade Cloud」(いずれも米Microsoft製)
稼働時期2019年より開発を開始、2020年度中に7つのシステムをクラウドに追加予定