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中外製薬、創薬を社内外と連携して進めるための研究開発基盤をAWSで構築

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年8月4日

AWSをベースに自動化やプロセス管理のツールを組み合わせ

 CSIは、「AWS(Amazon Web Services)」(米Amazon製)を採用して構築した。作業インフラ構築用の自動化ツール「Ansible」や、プロセス管理の「Atlassian Jira」や「GitHub」などのツールを組み合わせている。インフラ構築コストは「従来の10分の1に削減できた」と志済氏は話す。

 AWSを採用した理由は、「短時間での環境構築、スケーラビリティに加えて、高いセキュリティが確保されていると判断したため」(志済氏)。

 「より技術的にみれば、他のクラウドサービスと比べて、ログの取得可能なレベルが深く細かいこと、コストが毎年一定程度下がっておりバージョンが上がる際のコスト増加を考慮しなくてよいこと、そしてエンジニアのコミュニティ活動が活発で情報が豊富なことなどが優れている」(志済氏)と判断した。

 加えて、「AI(人工知能)や機械学習などの最先端を研究しているベンチャー企業や大手企業は、AWSをプラットフォームに採用していることが多く、協業時にはスピードやコストなど投資効率の面で有利だ」(同)ともいう。

 CSIの構築はAWSジャパンが支援した。同社執行役員 技術統括本部長の岡嵜 禎 氏は、「トライ&エラーを繰り返すことが製薬企業のイノベーションには非常に重要だ。その環境としてクラウドコンピューティングの特性は非常にマッチする」と話す。

 AWSジャパンは、医薬業界特有のセキュリティやコンプライアンスへの対応など、製薬企業の研究開発を支援する体制を整えている。医薬業界独自の管理・プロセス基準であるGxPに対応するためのガイドラインもまとめている。「同基準に沿って開発バーとナーもシステムを構築するため、製薬企業にとって安心感が高い」(岡嵜氏)とする。

 医薬業界におけるAWSの導入例には、理化学研究所 生命医科学研究センターにおけるゲノム解析プロジェクトの大規模解析基盤や、京都大学のゲノム解析環境がある。京大のケースでは、オンプレミス環境や学内のスーパーコンピューターにAWSを加え国際共同研究の基盤を整えたという。

創薬のプロセスをデジタルで変える

 製薬業は今、従来の大量生産から個別化医療に伴う多品種少量生産へと構造的な変化が訪れている。そこに医薬品のグローバル化による、さまざまな規制対応が求められる。製造現場の業務負担は増しており、データの統合と分析による品質管理の自動化といった効率化が避けられない。

 これまで創薬プロセスは、莫大なコストと時間を費やすことが常識とされてきた。クラウド環境の利用や、AI/ビッグデータ分析などの強化、外部企業との連携強化が、その常識に変革を起こそうとしている。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名中外製薬
業種医療・健康
地域東京都中央区(本社)
課題膨大な投資と時間が必要な新薬の開発プロセスを効率化したい
解決の仕組み新薬の研究開発基盤をセキュアなクラウド環境に構築、全社横断的なデータ活用に加え、社外の研究機関との共同研究を容易にする
推進母体/体制中外製薬、AWSジャパン
活用しているデータ医薬品の情報、ゲノム情報、臨床試験データ
採用している製品/サービス/技術「Chugai Scientific Infrastructure」(中外製薬が開発)、「Amazon Web Services」(米Amazon製)
稼働時期2020年3月