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中外製薬、創薬を社内外と連携して進めるための研究開発基盤をAWSで構築

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年8月4日

医薬品製造の中外製薬は、創薬に向けた新しい研究開発基盤を「AWS(Amazon Web Services)」を使って構築した。安全かつ信頼性の高い環境を構築し、社内外の連携を強化する。執行役員 デジタル・IT統轄部門長 志済 聡子 氏が2020年7月15日、AWSジャパンが開いた説明会に登壇し、その狙いなどを説明した。

 「新薬の開発時には、ゲノムや臨床試験のデータなど、機密性の高いヒト由来のデータを扱う。プライバシーを守りながらデータを全社横断的に活用するために新しい研究開発基盤『Chugai Scientific Infrastructure(CSI)』を構築した。大学や研究機関との共同研究プロジェクトの情報基盤としても使いたい」--。中外製薬 執行役員 デジタル・IT統轄部門長の志済 聡子 氏は、CSIの位置付けをこう語る。

2021年末に研究開発の基幹インフラに

 CSIは今後、バックアップセンターやSOC(Security Operation Center)の構築、運用管理体制を充実させ、2021年末までに研究開発の基幹インフラにするのが目標だ(図1)。

図1:2021年末までにCSIを研究開発の期間インフラとする(出所:中外製薬)

 中外製薬は1925年創業の医薬品製造企業。医療用医薬品に強く、2002年にスイスのロシュグループ傘下になった。バイオ医薬品、がん領域の医療用医薬品、診断薬の売上高は、ロシュ、中外製薬、米ジェネンティックのグループ3社で世界1位である。国内でも、がん領域の医薬品などではトップシェアを持つ。

 従来の医薬品開発は、数万の化合物から有効性を検証して絞り込み、安全性と有効性を確認して認可が下りるまでに膨大な投資と時間が必要だった。大型商品では10年以上、かつ数千億円の投資が必要と言われている。近年は、製品が市場で利益を上げられる期間が年々短くなっており、製薬企業にすれば開発の効率化が命題になっている。

 そのための解決策として期待されるのがデジタルの活用だ。同社は中期経営計画において、個別化医療の高度化を主要テーマの1つに掲げている。従来の少数の製品を大量に製造販売するモデルからの脱却を目指すには、デジタル技術の活用は不可欠だ。

図2:個別化医療の高度化を主要テーマの1つに掲げる中外製薬の中期経営計画(出所:中外製薬)

 その中核に位置するのが、社内データを統合的に管理するデジタルプラットフォームであり、中外製薬のCSIである。医薬品開発に関わる大容量のデータを安全にグループ全社で活用する。

 新薬開発プロセスでの利用例は、こうだ。まず、社外の医療機関などからヒト由来データの提供を受けるために、CSI上にセキュアにデータを連携できる環境を用意する。受け取ったデータを、研究テーマごとに異なる大学やベンチャー企業などに対し、CSI上に個別の環境を構築し、分析や研究に移れるようにする。

 特に社外機関との共同研究プロジェクトにおいては、CSI上では、各プロジェクト専用の開発環境をいくつでも用意できるようことがメリットだ。共同研究は、開発力や効率が向上する半面、プロジェクトごとの作業環境の構築に多くのコストと時間がかかるというデメリットがある。CSIは、ここを解消する。