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エーザイ、認知症予防に向けたスマホアプリをDeNAと共同で開発

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年8月7日

製薬会社のエーザイが、認知症領域での事業創出に取り組んでいる。そのためのデジタルプラットフォームと認知症予防に向けたスマートフォン用アプリケーションを2020年7月28日に発表した。アプリはDeNAの子会社DeSCヘルスケアと共同開発する。エーザイは、認知症領域で何を起こそうとしているのか。

 医療用医薬品の売り上げが全体の95%を占めるエーザイ。だが中期経営計画では、新薬の創出に加え、「社会を変えるイノベーションの実現」を掲げている。特に力を入れているのが認知症領域だ。

 認知症は世界で3秒に1人が発症し、2050年には患者数が1億5000万人を超えると予測されている。日本では介護が必要になった原因の1位が認知症であり、2025年には高齢者の5人に1人が発症するとされる。認知症対策の社会的コストは14兆6000万円にもなり、患者1人当たり年間1414万円がかかると見込まれている。

 その認知症領域でエーザイは、創薬および事業活動で35年以上の経験を持つ。世界初の認知症症状改善薬や次世代アルツハイマー病治療薬を開発している。

 ただエーザイ執行役ディメンシア・トータルインクルーシブエコシステム事業部プレジデント兼チーフデジタルオフィサーの内藤 景介 氏は、「認知症は薬だけで解決するのは難しい。生活習慣として日々の行動を変えて維持し続ける『健康習慣づくり』を生活の中に取り込んでいくことが予防につながる」と説明する(写真1)。

写真1:エーザイ執行役の内藤 景介 氏(左)と、スマホアプリ開発で提携するDeSCヘルスケア社長でDeNA執行役員の瀬川 翔 氏

 そこでエーザイが近年、注力しているのが、認知症領域の課題解決と支援への取り組みだ。「認知症エコシステム」の構築が具体策の1つ。あらゆる領域と業種を対象に、医療機関や大学、介護施設、企業などの製品/サービスや情報を集め、日常生活から医療までをつなぐことで、ソーシャルイノベーションの実現を目指す。

デジタル技術を使ったプラットフォームやツールを投入

 今後は、AI(人工知能)やデータ解析などデジタル技術の活用が不可欠として、認知症領域のプラットフォームやツールの活用も進めている。たとえば2020年3月には、脳の健康度の指標に「ブレインパフォーマンス」をセルフチェックするための「のうKNOW(ノウノウ)」を自治体や企業に向けに発売した。オーストラリアのCogstateが開発する認知機能テストを用いている。

 さらに今回、認知症関連の課題解決に求められるプラットフォームを目指す「Easiit(イージット)」の本格稼働と、ブレインパフォーマンスを測定できるスマートフォン用アプリケーション「Easiitアプリ」の提供開始を発表した(図1)。脳の健康を維持するために、「認知機能の定期観測を習慣付けることでライフスタイルを改善し、スムーズな診断や治療につなげる」(内藤氏)のが目標だ。

図1:エーザイの認知症プラットフォーム「Easiit(イージット)」の概念

 認知症の予防用アプリと聞くと、記憶力や集中力を改善する脳トレアプリを思い浮かべる。

 だが、認知症予防では、記憶力などよりも、定期的な運動やバランスの良い食事といった生活習慣のほうが、ブレインパフォーマンスが低下するリスクを減らすには効果的であることが、さまざまな研究でわかっている。2019年にはWHO(世界保健機関)が、脳の健康度に関するガイドラインを発表し、12のエビデンスと推奨レベルを提示している。

 ただエーザイが40歳から79歳の男女を対象に実施した調査によれば、「正しい予防行動を理解している人は全体の半数程度で、実際に習慣化しているのは2割以下」(内藤氏)だった。

 そこでEasiitアプリでは、歩数や睡眠時間、食事などのライフログから適切な食事や運動量を週替わりで個別に提案する。ブレインパフォーマンスに良い習慣や行動ができているかを独自のスコアリングで評価し、脳と体の健康状態を可視化する(図2)。ユーザーはアプリを使うたびに「Easiit マイル」が貯まり、ギフト券などと交換できる。

図2:「Easiit アプリ」アプリの画面

 EasiitアプリのファーストバージョンはiOS版。Android版は2020年8月のリリースを予定する。利用料は無料だが、将来的には有料サービスの提供も検討する。5年で500万人ダウンロードを目指す。