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富士通が自身のDXプロジェクト「FUJITRA」を始動、システム投資は1000億円超

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年10月16日

基幹システム刷新し業務プロセスを共通化

 データ駆動型の経営を実現するためにIT基盤も刷新する。基幹システム刷新を含む新しいシステム環境に1000億円超を投資する計画だ。

 富士通の業務システムは現在は、国ごと、業務ごとに異なるプロセスで運用されている。これをグローバルでシングルインスタンスのERP(統合基幹業務システム)に統一する。全世界でカスタマイズを排し、共通フォーマットの業務プロセスを実現することで、経営に直結するデータ基盤を構築する。

 福田氏は、「個別部署の事情に配慮したテンプレートをなくし、世界中の業務を1機能1システムに標準化する。最終的に富士通の『デジタルツイン』を作り、データから未来を予見する経営を実現する」と力説する。データを経営に生かすため、CEO直下に「DPO(データプロセスオーナー)」という組織も新設した。

 また富士通は2020年度から、顧客体験、従業員満足という非財務指標も経営管理に組み込んでいる。「MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究では、顧客体験と業務オペレーションの向上が共に実現できた企業グループは、平均より16%利益率が高い」(福田氏)からだ。

 富士通は「最速でこのグループに入るために、さまざまな施策を打っている」(同)という。顧客や従業員の多様な声を積極的に取り入れる「VOICE」という活動が、その1つ。

図2:顧客や従業員の多様な声を積極的に取り入れる「VOICE」の概念

 VOICEでは5月から6月にかけて、約3万7000人の社員に対しリモートワークに関して調査した。結果。社員の約84%がアフターコロナもリモートワークを中心にした働き方を支持したという。この結果も参考に7月に発表したのが、ワークスタイルの大幅な変更である。

DXを支援する企業がDX企業ではないという矛盾

 富士通はじめITベンダーは、顧客企業のDXを支援する立場にある。だが、その富士通自身が「DX企業ではない(と自覚している)」という矛盾が、フジトラプロジェクトの背景にはある。

 時田氏は「富士通は大企業だ。従来の事業運営の形は必要で、仕組みをすべて破壊することはできない。ただ、その強みを保つ形で、変えるところを大胆に変える必要がある。その舵取りが経営者の最大の務めだと思っている」と語る。

 福田氏も、「富士通は2020年度から、既存事業と成長事業を明確に分けて、両方を強くする経営を目指している。しかし目下の課題は、事業推進基盤が、既存事業に最適化され過ぎており、成長分野を伸ばせる仕組みになっていないことだ。このバランスを取り、既存事業は徹底的に高収益にし、かつ成長事業のスピードを上げることが必要だ」と話す。

 富士通は、時田氏と福田氏のリーダーシップの下、DX企業に生まれ変わろうとしている。そのために、日本企業としては最大規模という全社基幹システムの刷新と、それを中心にしたデータ基盤を構築する。そうした自社の経験を生かせば、顧客企業に対しても説得力と実行力を持つ提案ができるようになるのか注目度は高い。

 プロジェクトの進捗状況については今後、社外に発表していく予定ではあるが、詳細は決まっていない。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名富士通
業種サービス
地域川崎市(本店)
課題既存の事業モデルが大きく、世界的に競争力が高い企業になり得ていない
解決の仕組み全社でデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する。そのためにシステム基盤をグローバルで一新し単一ERP化を図る
推進母体/体制富士通
活用しているデータ各種経営データ
採用している製品/サービス/技術ERP(統合基幹業務システム)
稼働時期2020年10月(プロジェクト第一フェーズの開始時期)