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アスクル、大規模コールセンターのクラウド移行で期待する音声データ活用

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2021年2月22日

アスクルが、在宅コールセンターの構築を視野に、コールセンター用パブリッククラウド「Genesys Cloud」(米Genesys製)の導入を決め、2021年5月に移行する。カスタマーサービス本部オペレーションシステム管理・運用サポート部長の大平 憲一 氏が、Genesys日本法人が開いた記者会見に登壇し、パブリッククラウド型コールセンター導入の経緯を説明した。

 アスクルは、OA用品のB2B(企業間)通販サービスと、日用品のB2C(企業対個人)通販である「LOHACO」の2事業を中心に成長を続けている。2020年5月期のEC事業の売上高は3924億円、連結売上高は4003億円を達成した。特に2014年5月期以降はB2C事業の伸張が著しい。カテゴリ別の売上高は、OA、事務用品、生活用品が4分の3を占め、最近はメディカル等も伸びているという。

 そのため物流ネットワークは現在、B2向けに7カ所、B2C向けが1カ所、および双方に対応するセンターが1カ所の計9拠点を全国に展開している。カスタマーサービス本部オペレーションシステム管理・運用サポート部長の大平 憲一 氏は、「アスクルは社名の通り『明日届ける』が、現状では『今日中に届ける』ことを目的に、物流ネットワークを構築している」と話す(写真1)。

写真1:アスクル カスタマーサービス本部カスタマーサービス&エンゲージメント オペレーションシステム管理・運用サポート部長の大平 憲一 氏

 この物流ネットワークを支えるのが、顧客接点の中心であるコールセンターだ。B2Bは仙台、福岡の拠点に東京・豊洲本社を加えて運用し、B2Cは仙台、新潟、豊洲で運用する。豊洲本社にあるコールセンターはプロフィットセンターに位置付け、商品事業部と連携したECストアの支援や購入前の相談に対応。仙台、新潟、福岡の拠点はコストセンターとして顧客の一般的な相談や手続きを処理する。

 コールセンターへの1日当たりの問い合わせ件数は、B2Bが4000〜5000件、B2Cは200〜300件(メールも同程度)になっている。問い合わせ内容は、注文後の商品到着日などの問い合わせが約52%、商品についてが14%などだ。コールセンターのKPI(重要業績評価指標)としては、応答率が95%以上、接続品質80%以上、20秒以内の接続率を維持している。

 以前からアスクルは、コールセンター業務の24時間365日対応を実現してきた。「AIと人間のハイブリッドコミュニケーションによって運営し、営業時間中は人が、夜間休日はAIチャットボットがそれぞれ対応することで顧客サービスを途切れさせないように運用している」(大平氏)。

 「IBM Watson」(米IBM製)を使って独自開発したチャットボットは2種類ある。B2C向けの「マナミさん」が先行し、B2B向け「アオイくん」が続いた。現在、1カ月にマナミさんが約1万3300件、アオイくんが約4万9600件の問い合わせに対応しているという。

 顧客体験の改善にも注力している。チャットボットだけでなく、コールセンターに入る顧客の声や、SNSの書き込み、物流センターやドライバーなどの声を、カスタマーサービス本部が主管する「お客様満足向上委員会」に集約し、常に改善を行っている。

 同委員会は、「現場にフィードバックするだけで対応できない大きなテーマについては、役員会に直接共有する太いパイプを持っている」(大平氏)。

AI技術による音声分析やテキスト化に期待

 しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的な広がりをみせる中、企業のコールセンターは“3密”になりやすい環境だと指摘されている。だが、コールセンター業務の在宅化は容易ではない。アスクルにあっても現在、在宅業務で対応でるのはメール応対だけで、電話応対はコールセンターに出社する必要がある。

 さらに、2013年から使用してきたコールセンター用システムの「Pure Connect」(米Genesys製)が2021年6月末でサービス終了することになった。パブリッククラウドサービス製品「Genesys Cloud」へ切り替わるためだ。アスクルのPure Connectの契約は2021年5月で切れるタイミングだったが更新ができない。新たなシステムの導入に迫られた。

 そこで同社は、複数社の製品を検討した。必要条件として「600席以上、1日当たりコール数が5000件規模」があるため、それを満たせる製品は限られた。その中から、「在宅対応ができること、AIなど最新テクノロジーへの対応度などの要件を検討し、最終的にGenesys Cloudを選定した」(大平氏)。

 その理由を大平氏は、「顧客サービスとしての進化を継続できるかどうかが一番大きなポイントだった。コロナ禍が続く中で、メール対応だけの在宅業務を電話業務にも拡大させるためには、その対応も必須だった。当然ながら、当社の運用規模への対応力、セキュリティとBCP(事業継続計画)、コストの面からも検討した結果である」と説明する。

 アスクルは将来のコールセンターについて、「在宅対応も含めセンター運用の効率化と、テクノロジーの積極的な活用による顧客体験の進化を目指している」(大平氏)。特に在宅対応では、「業務に当たるコールセンター要員間のコミュニケーションが円滑にできることが非常に重要になる」(同)とみている。

 「別のチャットツールを使うのではなく、コールセンターのアプリケーションの中でコミュニケーションできることが応対品質を良くすると考えている。Genesys Cloudが持つグループ会話機能を活用していきたい」と大平氏は話す。

 加えて、同社がCRM(顧客関係管理)システムとして使用している「Salesforce.com」(米Salesforce.com製)との連携を密にできることから「通話分析を強化しAIによる音声応答も実現したい」(同)という。

 Genesys Cloudでは、音声をテキスト化する機能が海外ではすでに実装されている。同機能の日本語対応にもアスクルは期待する。大平氏は「電話の音声をテキスト化してマイニングし、応対履歴の入力作業など事務処理の効率化を図る。同時に応対記録を分析し、コールセンター要員のナレッジ共有にも生かしていきたいと考えている」と話す。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名アスクル
業種流通・小売り
地域東京都江東区(本社)
課題コールセンター用システムのサービス提供期間が終了するため次期製品の選定が必要になった。加えてコロナ禍で在宅勤務対応なども進めたい
解決の仕組み既存システムと同日ベンダーが提供するクラウドサービスを選定、提供されるAI機能などを活用し顧客の声をより活用していく
推進母体/体制アスクル、米Genesys日本法人
活用しているデータコールセンターで受ける顧客の声など
採用している製品/サービス/技術コールセンター用クラウドサービス「Genesys Cloud」(米Genesys製)
稼働時期2021年5月