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ダイキン工業の「オールコネクテッド戦略」、IoTの活用方針を大転換

岡崎 勝己(ITジャーナリスト)
2021年6月1日

2年がかりの人材教育を通じてアーキテクチャーを刷新

 DX-CONNEXTの提供に向けダイキン工業では、既存のエアネットの技術を使わずゼロベースでIoT環境を整備した。併せて空調システムや業務内容も見直した。

 IoT環境をゼロベースにした理由を、ダイキン工業 空調生産本部ITデバイス開発 エグゼクティブリーダー主席技師 橋本 雅文 氏は「大量アクセスへ対応するためだ」と説明する。

写真2:ダイキン工業 空調生産本部 ITデバイス開発 エグゼクティブリーダー主席技師の橋本 雅文 氏

 「DX-CONNECTの接続先として想定したのは市場の全機器を合計した100万台。エアネットでもクラウドは活用しているが、接続数の桁が異なる。技術流用では1万台の接続が限界だった」(橋本氏)

 ゼロベースで取り組むにあたり、クラウド人材も育成した。同社はデジタルトランスフォーメーション(DX)人材を育成するための社内大学「ダイキン情報技術大学」を展開している。これと同様に、外部の知見を借りながらシステム人材教育を実施した。約2年がかりで最新のWebアーキテクチャーに刷新し、100万台以上の接続と分単位のデータ収集やリアルタイム制御を実現したという。

 一方、空調システムや業務内容の見直したのは、空調機の多様なデータモデルに対応するためだ。同社の空調機は機種ごとにデータモデルが異なっている。新製品をネットワークに接続するために、エアネットでは対応するデータベースの準備に約2週間を要していた。

 その手間と時間を削減するために、DX-CONNECTでは、新製品の開発時にハードウェア図面に加えデータモデルも設計BOM(Bills of materials:部品表)に登録することで、対応データベースを自動で生成する仕組みにした。

アジャイル開発でDK-CONNECの新機能投入を加速

 こうした基盤に以上に、DK-CONNECのサービスとしての価値は、利便性の高いアプリケーションをどれだけ迅速に開発できるかが大きく左右する。そのためアプリケーションの開発体制も大幅に見直した。

 「利便性の高いアプリケーションに仕上げるには、顧客が何のために機能を利用するかが明確でなければならない。そこでDK-CONNECTにおけるアプリケーションの開発体制は、ウォーターフォール開発からアジャイル開発に全面移行させた。顧客を知る現場と技術のメンバーがチームを組み、議論しながら改善サイクルを高速に回していく」(橋本氏)

 オールコネクテッド戦略において、アプリケーションが提供する各種の機能の向上は、顧客ニーズの掘り起こし策としても期待する。すでに複数拠点の空調・照明を一括制御する機能や、各種センサーと連動し換気を自動で設定するといった機能を用意する。

 橋本氏は、「データを基にしたアップデートにより、管理工数の削減や省エネ、換気の最適化といった機能を容易に追加できる。アジャイル開発が力を発揮するのは、これからが本番だ」と力を込める。

 その一環として、COVID-19対応が急務になっている学校や病院などを想定し、業種・業態別やシーン別の空調用アプリケーションのメニュー化を推し進める考えだ。

 例えば学校向けでは、生徒の熱中症対策としての設定温度や風量の自動調整、教師の業務負荷軽減に向けた照明の遠隔制御といった機能を計画する。病院であれば、COVID-19対策として有効性が見込めるCO2濃度のデータを連動した自動換気や気流制御などを計画中である。

 ダイキン工業は、DX-CONNECTの拡販とネット接続できる製品の拡充を両輪に、新規に販売した空調機器のDK-CONNECTへの接続率を2025年までに5割以上にすることを目標にする。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名ダイキン工業
業種製造
地域大阪市(本社)
課題国内市場の約8割を更新需要になっている。一方で、新型コロナウイルス感染症対応や脱炭素など空調にも関連する新たな経営課題が浮上している
解決の仕組みIoTの仕組みを一新し、空調設備の稼働データに基づく新規のアプリケーションを業種・業態・利用シーンの別などに提供することで、新規ニーズを掘り起こす
推進母体/体制ダイキン工業
活用しているデータ空調機や照明などの運転データ、気象情報、顧客の利用状況など
採用している製品/サービス/技術データ基盤「DK-CONNECT」、各種デバイス接続専用のネットワーク端末「DK-CONNECT edge」(自社開発)、新しいWebアーキテクチャーに刷新するための人材育成、アジャイル開発体制
稼働時期2021年6月1日(DK-CONNECTのサービス開始時期)