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三越伊勢丹、イオンが取り組む小売業のDX、現場主導で成果を引き出す

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2021年7月12日

イオン:ミドルが始めたDX勉強会が社内公式事業に発展

 早くから小売業界のDXを進めているイオン。同社のスーパーマーケット(SM)事業は、全国に17チェーンを抱える最大のビジネス領域だ。同事業の経営企画を担当するSM担当付チームリーダーの北村 智宏 氏は、イオンのDXについて「私自身、テクノロジー分野の経験は全く持っていない。だが、手探りでデジタル化を進めてきたら社内で大きなうねりになった」と話す。

写真2:イオンSM(スーパーマーケット)担当付チームリーダーの北村 智宏 氏

 山本氏が“うねり”と話す取り組みの1つが、社内コミュニティの「SM DXLab」。同社が「デジタルの民主化」をキーワードに進める情報発信と学びのための企画である。

 SM DXLabは2018年、山本氏が社内有志と共に開設し、スーパーマーケットのDXについて学ぶ勉強会としてスタートした。以来拡大を続け、社員の誰もが無料参加できる場として定着しているという。

 2019年からは日本マイクロソフトの支援のもと、資格試験やトレーニングなど人材育成にも領域を拡大。コロナ禍の2020年はウェビナー形式に移行し、対象者をグループ全体に広げた。

 山本氏は、「コロナをきっかけにWeb形式を中心にしたことが、参加の自由度を高め、口コミによる社内での認知が急速に高まった。その結果、2021年からはイオングループの正式なDX推進企画として承認されている」と話す。2021年6月には、地域創生をテーマに開催した。

図2:イオンの「SM DXLab」の発展経緯

 正式企画として認められたこともあり、2021年のSM DXLabへの参加者数は、6月時点ですでに前年の4倍を超える2888人。国内外の131社から幅広い年齢層が参加する。「育休中の社員や、普段はデジタルとは無関係の部署の人も多い。最初の気づきや動議付けという意味では、うまく機能していると思う」(山本氏)という。

 山本氏は「DXの推進方法として『トップダウンかボトムアップか』の議論がある。だが私は、総力戦で動かすことが大事だと思っている。ポジションにかかわらず、気づいた人間が始めるにはデジタルは、すごく相性がいい。私のようなミドルが中心になることで、スピードアップを図れる場合もある」とする。

マイクロソフトと長期的なパートナシップを結ぶ小売業が急増

 三越伊勢丹やイオンの取り組みは、日本マイクロソフトとの協業で実施されている。日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部流通サービス営業統括本部長の山根 伸行 氏は、「グローバルでは、米ウォルマートとの5年間の提携をはじめ、これまでのベンダーと利用企業という関係を超えて、3~7年という長期の戦略的パートナーシップを結ぶケースが急増している。日本企業との協業も増えていくだろう」と話す。

 例えば、伊勢丹のREV WORLDSは、マイクロソフトのクラウド「Microsoft Azure」上に構築されている。仲田氏は、「日本マイクロソフトからは、安心・安全なインフラ環境と、幅広い知見によるサポートの提供を受けている。今後も協力を期待している」と語る。MR(Mixed Reality:複合現実)デバイス「HoloLens」とのシナジーにも期待を寄せる。

 一方のイオンは、SM DXLabのライブ配信に日本マイクロソフトが東京都内に持つイベントスペース「Azure Base」を利用した。金沢にあるAzure Baseとも接続し、金沢工業大学の教授を加えたパネルディスカッションも実施した。

 またSM DXLabの活動成果として取り組んだ実証実験にマイクロソフトのAI(人工知能)サービスを利用している。具体的には、グループの小規模スーパー「まいばすけっと」において店内の防犯カメラの動画データを「Azure Cognitive Services」を使って可視化し、パン売り場の欠品を検知した。実験では売上高を前年比118%に伸ばせたという。

 山本氏は、「今後は、マイクロソフトのネットワークも利用しながら地域に開発拠点を増やしていきたい」と話す。