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フリマのメルカリが今、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)研究に取り組む理由

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2021年7月13日

AI(人工知能)やロボット、ライフサイエンスなど、次々に登場する最新の科学技術が生活でも身近になってきた。併せて、それらが社会倫理や法整備にもたらす影響を研究する「ELSI(エルシー:Ethical、Legal and Social Issues=倫理的・法的・社会的課題)研究」が再び注目されている。そうしたなか、メルカリが大阪大学とのELSIに関する共同研究に取り組んでいる。その狙いはどこにあるのだろうか。

 近年の科学技術の急速な発展は、私たちの生活を便利にする一方、様々な不安や弊害をもたらしている。

 例えばAI(人工知能)による画像認識や顔認証の技術は、セキュリティの強化につながると同時に、収集したデータの取り扱いを間違えればプライバシーを侵害し、監視社会にもつながりかねない。米Amazon.comが開発したAI面接官では女性差別が判明したり、米ニューヨーク市警察が配備しようとしたロボット犬が市民の反発で中止されたりしている。

 自動運転やドローンも、技術の進化より実社会での運用面が大きな課題になっている。テクノロジーありきで新しい仕組みを導入した結果、手痛いしっぺ返しや炎上を招いた例は少なくない(図1)。

図1:最新テクノロジーを社会実装するには多くのハードルを乗り越えなければならない(大阪大学 社会技術共創研究センターの資料より)

 最新テクノロジーの運用に対する規制やガバナンスを求める声は、以前にも増して高まっている。だが日本では、技術の社会的責務に対するルールづくりに対する関心は低い。結果、世界市場において「技術で勝ってルールで負ける」状況が続く。

 現状打破に向け2021年4月、科学技術・イノベーション基本法が改正施行された。そこでは、人文科学を含む科学技術とイノベーションの創出が対象に含まれ、関心を集めている。その一環として、再び注目されているのが「ELSI(エルシー:Ethical、Legal and Social Issues=倫理的・法的・社会的課題)である。

 そのELSI研究に早くから取り組んできたのが、個人間のフリマサービスを手掛けるメルカリの「R4D」である。2017年12月に設立された研究開発組織だ。

 R4Dの名称は「Design(設計)・Development(開発)・Deployment(実装)・Disruption(破壊)の4つDをResearch(研究)する」という意味だ。同社の企業ミッションである「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」を達成するために、3〜5年後のメルカリを作るための研究開発に取り組み、その成果を社会実装する。

 R4DにおけるELSI研究は、フリマにも関連する「価値交換工学」を軸とする研究の中に位置付けられている(図2)。

図2:R4Dが研究する「価値交換工学」の中にELSI研究がある。