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コープさっぽろ、経営破綻からのV字回復をカイゼン活動で果たす

コープさっぽろ協同組合 理事長 大見 英明 氏、「アジャイル経営カンファレンス」から

ANDG CO., LTD.
2022年5月18日

フラットな組織で決済スピードを高める

 大見氏は2007年にコープさっぽろの理事長に就任する。そこからは組織風土の改革に注力した。具体的には、職員が自ら考え責任を負って行動できるフラットな組織の実現だ。

 経営破綻するまでのコープさっぽろは「トップが25年間も君臨し続けるワンマンの組織」(大見氏)だった。そこでは自然と仕事が指示待ちになり、職員は自らの権限を行使しない硬直した組織になっていく。事実、「部長が上司の取締役に議案を提案しても『このままだと役員会に通らないので修正が必要だ』と手戻り/出し直しが発生。修正して提案しても、また修正が必要といったことを繰り返していた」(同)

 現在のコープさっぽろには約80人の部長職がいる。だが、理事長の大見氏との間には常勤役員と執行役員が約10人いるだけだ。理事長と部長職の距離が縮まったことで「決裁スピードが上がり俊敏に行動ができるようになった」と大見氏は話す(図1)。

図1:組織のフラット化により決済スピードを高めた

QC活動やトヨタ生産方式を取り入れ職員の自立を促す

 大見氏が次に取り組んだのは、教育の改革である。職員1人ひとりを自立的に問題解決できる人材に育てていくため3つの教育を実施した。(1)IE(インダストリアル・エンジニアリング)の基礎教育、(2)QCサークル活動の基礎教育、(3)トヨタ生産方式の基礎教育である(図2)。

図2:実的に問題解決ができるようカイゼン活動を教育した

 これらにより、業務内容を多角的に正しく理解し、改善すべき点を見つける能力を身につけるとともに、みんなの前で発表できるようにした。トヨタ生産手法からは「後補充のカンバン方式についての理解を深めた」(大見氏)。職員がしっかりと学べるよう10数年をかけて教育の体系化を図ってきた。

 ボトムアップの仕組みとして、(1)気づきメモ、(2)成功事例集、(3)仕事改革発表会も作った。気付きメモはコープ会員の対応で得た気づきを報告するもの、成功事例集は職場でうまくいった事例を報告する仕組みだ。仕事改革発表会では、QCサークル活動に準拠した成果を報告する。

 教育改革とボトムアップの仕組みを元に、2015年には業務のスタンダードマニュアルとなる「業務の基準書」作りをスタートさせた。現在では、51の事業所で作られたマニュアルは3万6000ページ、動画も1200本ある。「業務の基準書」ができたことで、新しく採用したパート/アルバイトも自主学習で早期に仕事をこなせるようになった。「職員1人ひとりが標準作業時間を意識するようになり、生産性も向上した」(大見氏)という。

 現在もコープさっぽろでは人材の確保と育成に努めている。「同じ職員同士が長く勤めていると馴れ合いが起こってしまう。そういった状態から経営破綻に至った現実がある」(大見氏)との反省から、様々な採用形態を採っている。パートから正規職員として採用したり、外部スタッフを雇用したりするほか、幹部候補生の公募やヘッドハンティングなども実施している(図3)。

図3:2021年から新たな経営戦略を実行している

 様々な人材が行き交い、異文化との融合が継続的に起こることで、コープさっぽろでは常に常識が見直され、組織風土の改革が進んでいく。