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オルビス、DXの目的とコンセプトをトップが示し顧客体験や物流センターを改革

オルビス 代表取締役 小林 琢磨 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2022年7月1日

化粧品事業を手掛けるオルビス。代表取締役の小林 琢磨 氏は2018年の就任後、オルビスのブランド変革に取り組み、その一環として顧客価値を高めるためのデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。都内で2022年2月9~10日に開催された「Manufacturing Japan Summit 2022」(主催:マーカスエバンズジャパン)に登壇した小林氏は、同社のDXへの取り組みや新物流センターの位置付けなどについて語った。

 1987年創業のオルビスは、化粧品事業などを展開するポーラ・オルビスグループにあって、基幹ブランドを構成する事業会社である。同社 代表取締役の小林 琢磨 氏は、新卒でポーラに入社し、社内ベンチャーとして立ち上げた直販ブランド「DECENCIA」の代表取締役に2010年に就任した。2017年にオルビスの取締役になり、翌2018年から現職に就いている。

写真:オルビス 代表取締役の小林 琢磨 氏

急成長後の低迷をブランド変革で乗り切る

 オルビスが創業した1987年はバブルの絶頂期。小林氏は「いろいろなモノが派手になっていった時代。大手化粧品ブランドがアンチエージングを掲げる中、そのアンチテーゼとして『環境に配慮、シンプル』というコンセプトを掲げ、マーケットに参入した」と当時を振り返る。

 ただ当初は“地味”“ダサい”という意見が多く「5年ほどはビジネスが全く立ち上がらなかった」(小林氏)という。それがバブル崩壊後、平均2000円という価格が受け入れられ売り上げが急成長する。

 ただ2000年代半ばには成熟期に入り売り上げが伸びなくなり、商品ラインナップをライフタイムバリュー(LTV)を高めるため横に拡大した。すると「ブランドとしての軸が失われプレゼンスが低下した。それを補うためにキャンペーンドリブンで拡販を図るが、在庫が増え利益率が下がっていた」(小林氏)

 小林氏が、オルビスの代表取締役に就いたのは、そんな時期だった。そこから小林氏は、ブランドビジネスへの転換を図るためブランド変革に取り組んだ。「スキンケアを中心としたビューティーブランドとして認知してもらうため提供価値をはっきりさせ、リブランディングした」(同)。大ヒット商品が生まれる一方で、キャンペーン目当ての顧客は離れていった。売り上げは横ばいながら利益率は高まった。

目的とコンセプトを明確にDXを推進

 リブランディングと同時に取り組んだのがデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。そこでは「DXが目的化しないよう、目的とコンセプトを明確にした」と小林氏は語る。

 具体的には、オルビスにおけるDXの目的は顧客価値を高めることであり、そのコンセプトはブランド体験のDX化だ。このコンセプトの中核にあるのが、スマートフォン用アプリケーションを中心に位置付けブランド体験を作っていく「アプリコア戦略」(小林氏)である。

 オルビスの販売チャネルは、通販と実店舗の2つある。以前から、顧客のLTVについては、「通販だけ、あるいは店舗だけの顧客より、通販と店舗の両方を使う顧客のほうが2.4倍も高いという結果が出ていた」(小林氏)。アプリコア戦略では「店舗とアプリを併用してもらうにはどうすれば良いかを考えた」(同)という。

 結果、アプリに搭載したのがAI(人工知能)技術を使ったパーソナライズ機能である。5年後、10年後の顔立ちを予測する「AI未来肌シミュレーション」や自分に合った眉の形を反映する「AIアイブローシミュレーター」などだ。「これがバズり、現在までに約400万ダウンロードされている」(小林氏)

図1:オルビスがスマホアプリに搭載するAI技術を使った機能の例

 アプリコア戦略と並行して力を入れたのが流通センターの改革である。オルビスは東日本と西日本の2カ所に流通センターを持つ。両センターでは毎日、約2万件の注文を処理し、15時までの注文は当日に出荷する。「1注文当たり商品点数が7~8点と多いことが特徴だ」(小林氏)という。

 以前からピッキングや仕分け業務の効率を高めるシステムを導入してきた。「同じような商品を購入している顧客の注文データを集約し、担当者が最短で最適なルートでピッキングできる方法を採っていた」(小林氏)。だが指示出しこそデジタルなものの、ピッキングは担当者が歩くというアナログだ。

 結果、担当者が歩く歩数は1日1万歩を超えていた。小林氏は「高齢化が進むなか、このままでは担当者の確保も難しくなる。人が動かない方向へと発想を変えなければ厳しくなる」と考え始める。

 そこに、配送を委託していたヤマト運輸の値上げによる“宅配クライシス”が重なる。当時オルビスでは年間出荷件数600万件のうちの7割をヤマト運輸に委ねていた。他社にすぐ切り替えることもできず「最後のワンマイルが最大の危機に陥った。いくら良い商品を作っても顧客に届かないのでは作っていないのも同じだった」と小林氏は、その状況を話す。

 ラストワンマイルの持続性を高めるためにオルビスは2018年3月、次世代物流構築プロジェクトを立ち上げる。日本の今後の状況を鑑み、「省力化」「出荷能力1.3倍増」「コスト削減」「オルビス独自視点による価値創出」という目標を立てた。