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ベイシア、ポストコロナを生き抜く“小売DX”に向けた7つの施策

ベイシア マーケティング統括本部・デジタル開発本部 本部長 亀山 博史 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2022年8月1日

群馬県を拠点に総合スーパーを展開するベイシア。ホームセンターのカインズや作業着のワークマンなどと共にベイシアグループを構成する中核企業の1つである。ポストコロナを生き抜き、さらなる成長に向けて2020年10月からデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを本格化させている。同社のDXを推進するマーケティング統括本部・デジタル開発本部 本部長の亀山 博史 氏が、東京で2022年5月10日に開催された「CIO JAPAN SUMMIT 2022」(主催:マーカスエバンズ)に登壇し、小売業としてのDX戦略を解説した。

 ベイシアは、北関東を中心に1都14県で136店舗(2022年2月末時点)を展開する総合スーパー。創業は1959年で、現ベイシア取締役名誉会長の土屋 嘉雄 氏が群馬県伊勢崎市で「いせや」を設立したのが始まりだ。現在は、ホームセンターのカインズや作業着のワークマンを含む29社からなるベイシアグループを構成し、グループ売上高は2020年に1兆円を突破した。

 グループのデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みは、カインズやワークマンが先行し、中核企業でありながらベイシアではDXだけでなく、デジタル化自体があまり進んでいなかったという。

 そんなベイシアを変えるべく2020年10月に参画したのが現マーケティング統括本部・デジタル開発本部 本部長の亀山 博史 氏だ。アビームコンサルティングや富士通総研で消費財分野のシステムコンサルティングに従事した後、30代後半にアマゾンジャパンに転職。アマゾンジャパンでは化粧品部門のリーダーとして売り上げを伸ばし、その後のスターバックスジャパンではCIO(最高情報責任者)として、さまざまなデジタル化に取り組んできた。

 ベイシアでの自身の役割を亀山氏は、「CMO(最高マーケティング責任者)とCDO(最高デジタル責任者)とCIOをごちゃ混ぜにしたような仕事をしている」と説明する(写真1)。

写真1:ベイシア マーケティング統括本部・デジタル開発本部 本部長 亀山 博史 氏

後発のスマホアプリを武器に顧客を実店舗のファンに

 ベイシアに参画した亀山氏はまず、DXの推進組織を立ち上げた。同時にスマートフォン用アプリケーション「ベイシアアプリ」の開発に取り組み、1カ月後の2020年11月には顧客への提供を開始した。さらに2021年4月には楽天とのネットスーパー契約に国内1社目として合意した。「後発だからできたこと」とする亀山氏だが、これら以外にも、さまざまな手を打っている。

 その規範になるのが、ベイシアのデジタル戦略だ(図1)。だが「当時のベイシアには中期経営計画(中計)すらなかった」と亀山氏は振り返る。ベイシアのオーナーは創業者の土屋 嘉雄 氏であり「オーナー自体が中計のようなものだった」(同)からだ。その土屋氏も高齢のため「オフィスにも、ほとんど姿を見せることはない」(同)状況だった。

図1:ベイシアのデジタル戦略

 デジタル戦略の立案には中計は不可欠だ。そこで亀山氏は、中期経営計画の作成にも取り組んだうえで、デジタル戦略を立てた。具体的には、「まずはやるべきことを明確に決め、『おトクで便利な買い物サービスの実現』というビジョンを打ち立てた」(亀山氏)。その実現に向けたカギを握るのがアプリだとの考えから、ベイシアアプリの開発を最優先したわけである。

 アプリを重要視した理由を亀山氏は、こう明かす。

 「スーパーへの来店は週2~3回。延べ時間にすると約1時間だ。1週間は24時間 × 7で168時間ある。来店していない残りの167時間に、どうやって顧客とコネクトするのかが課題になる。従来なら、それは折り込みチラシの役割だったが、今の人たちは新聞を読まない。そこでアプリを使って167時間、さまざまにコミュニケーションを取ることを考えた」

 そのベイシアプリは2021年7月に実施された大手食品小売りが提供しているアプリの利用率比較調査において「最高」と評価された(ソフトブレーン・フィールド調べ)。そのことを知らせる記事をオンラインメディア『ダイヤモンド・チェーンストアオンライン』でみた亀山氏は「1年弱で『最高』と言われるアプリに成長できたことが喜ばしかった」と話す。