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「丸亀製麺」のトリドールホールディングス、目指すべきDX像と推進シナリオを描きブレなく実行

トリドールホールディングス 執行役員 兼 CIO 兼 CTO 兼 BT本部長 磯村 康典 氏

岡崎 勝己(ITジャーナリスト)
2022年8月5日

コロナ禍で営業自粛や時短営業などを求められた飲食業にあって、いち早く業績を回復させた企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みに前向きだ。「丸亀製麺」などを展開するトリドールホールディングスが、その1社。同社の執行役員 兼 CIO 兼 CTO 兼 BT本部長を務める磯村 康典 氏が、東京で2022年5月10日に開催された「CIO JAPAN SUMMIT 2022」(主催:マーカスエバンズ)に登壇し、DXを推進するためのポイントやIT基盤像などを解説した。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の直撃を受けた外食業界では、事業の縮小や撤退を余儀なくされる企業も少なくない。そんな逆風下でも気を吐く企業の1社がトリドールホールディングスだ。讃岐うどん専門店の「丸亀製麺」を柱に、タイ屋台料理をコンセプトに欧州を中心に展開する「WOK TO WALK」、香港を中心に米線(ミーシェン)を使ったスパイスヌードルを展開する「譚仔三哥(タムジャイサムゴー) 」など約20の飲食ブランドを30カ国で展開する。

 同社の執行役員 兼 CIO(最高情報責任者) 兼 CTO(最高技術責任者) 兼 BT本部長の磯村 康典 氏は、コロナ禍でも成長できる企業について、こう語る。

 「成長企業に共通するのは、主力事業が飲酒に依存していないことをはじめ、デリバリーなど非接触での接客にいち早く対応し、グローバルなビジネス展開によりパンデミックの影響を分散させていること。当社も同様の対応で業績を急回復させてきた。その原動力こそが、2021年1月に発表した『DXビジョン2022』に基づく取り組みだ。顧客から現場、バックオフィスまでを結ぶデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している」

写真:トリドールホールディングス 執行役員 兼 CIO 兼 CTO 兼 BT本部長の磯村 康典 氏

DXの推進計画に財務諸表への影響を織り込む

 事実、同社の21年度(3月期)の売上高は、最終赤字に陥った前年度と比べ15%増の1534億円、営業利益は142億円を確保した。今後はDXをさらに加速させ、28年度に売上高3000億円、営業利益率12%台にまで引き上げたい考えだ。

 そのトリドールホールディングスも、「ほんの3年ほど前までは、多くの従業員が自社システムに不満を持ち、取締役会が今後の事業拡大に向けた足かせになると危惧していたほど」(磯村氏)だった。それをグローバルフードカンパニーに相応しい経営基盤を整備するために2019年9月、CIO職を新設しDXへの取り組みを開始する。そのために招聘されたのが磯村氏である。

 DXを推進する際に、いずれの企業でも「どう戦略を定めるか」「どう原資を確保するか」が課題になる。前者に対し、CIOに就いた磯村氏が真っ先に実施したのが、持株会社と事業会社の全役員、全部門長、店長などへのヒアリングだ。業務上の課題やITへの要望などを3カ月かけて聞き出した。

 それらの声と、トリドールホールディングスの経営方針や強みを照らし合わせ、目指すべきシステム基盤像をまとめた「ITロードマップ」を2019年12月に作成。それをブラッシュアップしたのがDXビジョン2022である(図1)。

図1:システム基盤の整備を狙った「ITロードマップ」をブラッシュアップし「DXビジョン2022」をまとめ上げた

 一方、原資の確保に向けては、「コストの精緻な把握と経営層を説得するための計画の立案」(磯村氏)に取り組んだ。財務諸表を分析し、通信費やシステム利用料、業務委託費などを細かく割り出しながら、過去のIT投資の総額とIT固定資産の残存簿価を算出した。

 そのうえで、既存のオンプレミス環境をSaaS(Software as a Service)へ移行することを前提に、すべての見積もりを取得し、初期コストとランニングコストを洗い出した。売上高に対するコスト比率や、固定資産/リース資産の増加を抑えるかたちでプロジェクトを練り上げていった。

 磯村氏は、「DX予算の確保では、当然ながら、投資に対する経営陣の理解を得る必要がある。損益計算書や貸借対照表は、そのための有力手段だ。DX推進計画の策定時には、取締役会で承認を得られるよう、財務諸表への影響を織り込むべきだ。そこでメリットを示せなければ、計画がいくら優れていても次にはつながらない」と強調する。