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米タペストリー、DX戦略の柱は「生産性」と「顧客」そして「人材」の3つ
タペストリー・ジャパン VP, Head of International IT 杉林 隆彦 氏
「COACH」など複数のファッションブランドを展開する米タペストリー。コロナ禍で変化する顧客購買行動を背景に、新たな販売チャネルの確立などデジタル技術の活用を加速させている。タペストリー・ジャパンのVP(バイスプレジデント)でInternational ITのヘッドを務める杉林 隆彦 氏が、東京で2022年11月に開催された「CIO Japan Summit 2022」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン)に登壇し、同社のデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みや、デジタル活用を支える人材育成について説明した。
米タペストリーは「COACH」など複数ブランドを展開するファッション企業。「kate spade new york」や「Stuart Weitzman」を買収した米コーチが2017年に社名変更した。日本国内でも約300店を展開する。しかしコロナ禍では一時、店舗閉鎖を余儀なくされるなど小売業界にとって厳しい経営環境が続いた。その巻き返し策としてグローバルにデジタルトランスフォーメーション(DX)に力を入れている。
同社の日本法人、タペストリー・ジャパンのVP(バイスプレジデント)である杉林 隆彦 氏は、Head of International ITとしてAPAC(アジア太平洋)とEU(欧州)両地域のCIO(最高情報責任者)も務める。国内の大手通信事業者でシステム担当や企画職を担当後、GAP Japanを経てコーチ ジャパン(現タペストリー・ジャパン)に転身した。タペストリーのDXについて杉林氏は、こう説明する。
「オンプレミス環境にあった基幹システムはERP(統合基幹業務システム)のクラウドサービスへ移行し、約95%が完了済みだ。そこで獲得した柔軟性を武器に“カスタマーファースト”な企業になるためにローコード開発によるアプリケーションの見直しやIT担当者の意識改革を同時並行で進めている。そこでの切り口は『生産性』『顧客』『チーム』の3つがある」
生産性:自動化に向けプロセスのシンプル化と標準化を図る
生産性への取り組みについて杉林氏は、「ファッション業界のデジタル技術の活用では、顧客接点での取り組みが注目されがちだが、タペストリーでは裏方での活用にも力を入れている」と話す。その根底にあるのは、「プロセスのシンプル化と標準化だ。それらを欠いた自動化では、暗黙知の喪失などにより逆にリードタイムが伸びることもある」(同)と指摘する。
シンプル化・標準化の一例が素材の無駄を抑えるための型抜き加工。さまざまな形状をしている1枚の皮革から、製品に必要なパーツを最もムダがでないようにコンピューター制御で型抜きする。世界中で環境意識が高まる中、同社ではデザインからレーザーによるカットまでを一気通貫で実施する仕組みを整備し終えた。
切り抜く型をデータ化したことによる副次的な効果も得られているという。試作品の開発プロセスの変化だ。杉林氏は、「従来はデザイナーがアイデアスケッチに説明を加えた指示書を作成し、試作作業を依頼してきた。それがデータ化により、色や湾曲、まちなどをCG(コンピューター画像)で表現できるようになり、イメージをより正確かつ直接的に伝達できるようになった。試作品の品質とともに、デザイナーと現場の業務効率も高まっている」とする。
物流分野では、商品を配送するための段ボールの最適化も取り組んでいる。1つが、輸送用コンテナに段ボールを配送先などの別に最大限積み込むための配置プログラムの開発だ(図1)。段ボール自体、商品の大きさや重量に合わせて都度、自動で切断する仕組みになっており、箱の大きさをさまざまに変えている。
今後の強化点となるのが需要予測の高度化だ(図2)。社内にデータサイエンティストを抱えて取り組んでいる。「需要予測は店舗への配送効率の向上にもつながるだけに重要だ。すでに社内データの活用は当たり前になっている。今後は、ソーシャルグラフなど外部データも活用した新たな分析視点の獲得がテーマになる」と杉林氏は力を込める。