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HILLTOP、今の成功は「人を生かす」自動化にこだわったからこそ
HILLTOP 代表取締役社長 山本 勇輝 氏
デジタルトランスフォーメーション(DX)の策として業務自動化に乗り出す企業も珍しくなくなった。一方で、期待ほどの成果を挙げられていないとの声もあちこちで耳にする。HILLTOPで代表取締役社長を務める山本勇輝氏が、東京で2022年11月に開催された「CIO Japan Summit 2022」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン)に登壇。NASAからも仕事が舞い込むほど高い評価を得ている同社の業務自動化の背景と、そこで考慮すべきポイントについて提言した。
「人は、人にしかできない仕事に集中すべき。この考えが当社ビジネスの原点にある」−−。京都府宇治市に本社を置く金属加工業、HILLTOPの代表取締役社長である山本 勇輝 氏は、こう語る。
同社が生産するのは、高い精度が求められる試作品など。月間に製造する4000品目のうち8割が単品もので、デジタル技術を使って自動化・無人化した工場を24時間稼働させ、受注から5日以内に納品する。米カリフォルニアに置く工場には、NASA(米航空宇宙局)などからの依頼もあるという。
自動化・無人化に必要な各種ソフトウェアも内製する。設計図から加工フローを決める工程設計ツールや、工作機械を動かすための加工プログラム、その動作に誤りがないかを確認するためのシミュレーションツールなどだ。
個々の作業を“レシピ”としてパターン化しデータベースに
HILLTOPの創業は1961年。山本社長の祖父が「山本鉄工所」として立ち上げ、ベアリングの製造を請け負っていた。だが「取引先からは毎年値下げを迫られ、利益を確保するための長時間労働が常態化していた。そうした状況を挽回するための技術もなく、じり貧になるのは明らかだった」(同)という。
当時を山本社長は「どこにでもある3K職場の町工場だった」と振り返る。「そこでの仕事は、作業を身体で覚えることであり、発見や学びによる喜びや楽しみがないままに時間だけが流れていく。それは人がやるべき仕事ではない。この状況を改め、人が頭を使う仕事を求めるべきだと考えた」(同)
そして決断したのが、当時、売り上げの9割を占めていた大量生産から撤退し、試作品の製造を請け負うメーカーへの業態転換だ。だが、経験が不十分な試作品の製造では、さまざまに試行錯誤しなければならず、工数当たりの利益は低下せざるを得ない。
業態転換に伴う課題を打開するために推し進めたのが、作業内容の仕分けとルーチンワークのマニュアル化。「一連の作業は、人にしかできない仕事と、機械でも実行できるルーチンワークに分けられると気づいた」(山本社長)からだ。作業内容をメモに取り、個々の作業を“レシピ”としてパターン化し、そのデータベースを構築していった(図1)。
ただルーチンワークで仕分けられる作業であっても、当の作業員にすれば、長い時間、苦労して習得したノウハウである。その公開に対しては、「自分の仕事がなくなるとの危機感から、現場の反発も少なくなかった」と山本社長は振り返る。
「ノウハウを渡したくないという気持ちは理解できる。しかし、それが『背中を見て盗め』という考え方になり、若手への技術継承の妨げにもなっていた。業務の効率化はもちろん、試行錯誤による新たなチャレンジにもつながらない。幾度も衝突しながらも、作業の1つひとつについて、使う工作機器や刃物の種類、刃物を当てる角度や回転数などを粘り強く聞き出していった」
加えて、「すべての技術はデータ化できる」(山本氏)との発想から、職人技による加工結果と、レシピに基づく加工結果を照らし合わせ、より最適な加工プロセスとなる“数値”を追求した。その蓄積が、現在のHILLTOPの標準スタイルである「データを基に工作機械に指示を出す“オフィス中心のモノづくり”」(同)を支えている。