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HILLTOP、今の成功は「人を生かす」自動化にこだわったからこそ

HILLTOP 代表取締役社長 山本 勇輝 氏

岡崎 勝己(ITジャーナリスト)
2022年12月16日

安全シミュレーションで工場の無人稼働を実現

 レシピを中核に、同社の自動・無人工場を支えるのが独自開発した「HILLTOP System」である。工作機械に動作を指示する加工プログラムを作成するためのデータベースである「オペレーションリスト」と、作成した加工プログラムに基づく工作機械の動作に問題がないかを検証する「バーチャルシミュレーション」からなっている。いずれも「機械加工の未経験者でも操作できる」(山本氏)という。

 オペレーションリストは、「刃物の回転数」や「一度の切り込みで削る量」など、刃物による、さまざま作業の最適な数値をまとめたデータベース。従来は、職人が長年の経験で身につけていたような暗黙知だった。それをHILLTOP Systemでは、未経験者でもマウス操作だけで適切な値を選択・登録できるようにした。「レシピに基づき、あらゆる処理の最適値を用意している。設定項目数も、ある処理では800項目を25項目になるなど集約している」(山本氏)

 一方のバーチャルシミュレーションは、作成し加工プログラムを用いて工作機械で安全な加工が可能かを検証するシミュレーター。指定した工作機械や素材の大きさ、配置場所などのデータを基に加工工程をシミュレーションし、干渉など作業時の不具合の有無を検証する。不具合があれば加工プログラムを修正する。

 山本氏は、「シミュレーションにより動作の安全性を事前に確認できるため、人が機械に張り付く必要がなく、工場の無人稼働が可能になった。(加工プログラムを作成する)オフィスと工場をネットワークで結ぶことで、海外の工場を含め、製造場所を問わない作業指示も出せる」と、その効果を話す。

人を生かすために自動化を加速

 自社工場の自動化・無人化を進めてきたHILLTOPが現在、開発を推し進めるのが、クラウドエンジニアリングサービス「COMlogiQ(コムロジック)」である。HILLTOP Systemの機能をオンラインで提供する。顧客企業は自らの設計データをアップロードすれば、工作機械を動かすための加工プログラムが自動で生成されるため、人の稼働時間を大幅に減らせる(図2)。例えば、人手で4時間半かかる作業が、HILLTOP Systemでは59分、COMlogiQでは6分にまで短縮できるという。

図2:クラウドエンジニアリングサービス「COMlogiQ」では、材料をセットすれば、その後の工程は自動化されており、人が介する時間を大幅に短縮した

 COMlogiQには過去の製造指示書や加工プログラムを学習したAI(人工知能)システムを組み込んだ。これにより、設計データからの製造指示やプログラミングの自動化を図っている。山本氏は、COMlogiQのAI機能について、こう説明する。

 「世界トップクラスの形状解析機能を実現した。顧客企業がアップロードした設計データからの部品加工が可能かどうかを判断するとともに、干渉などが発生する場合には、どう形状を見直すべきかをフィードバックできる。AIシステムは学習し続けるため、加工工程のさらなる効率化や製品の高品質化も見込める」

 モノづくりの世界は今、消費者の嗜好の多様化を背景に、年を追うごとにロット当たりの生産量が減少し、製品自体のライフサイクルも短くなっている。加えて、若者のモノづくり離れにより人材確保も難しい。

 山本氏は、「当社の自動化の出発点は、学びのない労働の苦しさからの脱却だった。逆に言えば、つらい肉体労働であっても、そこに喜びが見いだせるなら、その労働は残すべきである。当社が自動化で成功できているのは『人を生かすことが第一』と考えたからこそだ。その点は今後もブレることはない」と力を込める。

 自動化・無人化を支えるHILLTOP SystemとCOMlogiQは今後、「人を活かす」ために、どう進化していくのだろうか。