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大和ハウス、BIMデータを核にしたデータドリブン経営へのシフトを急ぐ

「Autodesk University 2022」での事例講演より

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2022年12月27日

大和ハウス工業が、BIM(Building Information Modeling)データを核に建設現場のライフサイクル管理に向けたデータドリブン経営のための「コマンドルーム」構想を推し進めている。同社幹部らが米ニューオーリンズで2022年9月に開かれた「Autodesk University 2022」(主催:米Autodesk)の事例講演に3度登壇し、同構想や、それに伴う実証実験の成果などについて解説した。それぞれの概要を紹介する。

 「コマンドルーム」−−。大和ハウス工業が、経営幹部による意思決定を支援するために進めている構想の名称だ(写真1)。同社内のすべての会議における意思決定者がリアルタイムな現場の情報を元に決断を下せるためのプラットフォームを構築し“司令室”としての機能を実現する。

写真1:大和ハウス工業のコマンドルームのイメージ

 東京本社 技術統括本部 建設DX推進部 次長の宮内 尊彰 氏は、コマンドルームの実現を目指す理由を、こう説明する。

 「これまでも経験豊富な役員は、各部門から上がってくるデータを使って作成された資料を元に経営の意思決定を下してきた。“データ活用”という意味では、これもデータドリブン経営だ。しかし、施工がスケジュールどおりに動いているか、最適な資材が正しく発注されているかなど、現場にリアルタイムに集まってくる、さまざまな情報に基づいて意思決定できることが、真のデータドリブン経営の実現には必要だ」

BIMに現場データを付与するほか基幹システムとも連携

 コマンドルームで扱う現場情報の中核に位置付けるのがBIM(Building Information Modeling)モデルである。BIMモデルでは、建物の3D(3次元)設計データをコアに、設計から発注、施工、完成後の管理・運用、解体・建て替えまで、建設のライフサイクル全般で発生する付随情報を追加・管理していける。

 宮内氏は、「これまでのBIMは、設計や施工など各部門のためという部分最適な考え方で使われてきたかもしれない。しかし本来は、建物のライフサイクルに関わるすべての人のデータであり、BIMを通じた部門間連携による全体最適を図るべきだ。その意味でBIMは、建物に関する情報の管理だけでなく、建設業界全体における、さまざまな追加業務に対応するための重要なデータになる」と強調する。

 ライフサイクル管理に向けてBIMデータには、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)データや、製品・仕様データ、施工データ、品質データ、建物運用データなどを、その発生工程ごとに関連付ける。東京本社 技術統括本部 建設DX推進部 建築系設計グループの小川 拓真 氏は、「これにより建設プロセスにおけるデジタルバリューチェーンを実現する」と力を込める。

 コマンドルームの拡張ステップとして、ERP(Enterprise Resource Planning:基幹業務システム)やSCM(Supply Chain Management)といった基幹システムとの連携も構想する。さらに、気候データや判例データなど、経営判断に必要なデータの洗い出しを進め、データの収集・連携対象も広げたい考えだ。

 また、米Autodeskとの戦略的にパートナーシップの一環として、コラボレーションや意思決定を支援する「大和ハウス・デジタルブレイン」の開発にも取り組んでいる。部門や製品ライン、提供するサービスなどから得られるデータを学習し、将来を予測できるようにする。宮内氏は「データをリアルタイムに活用する意思決定プロセスの変革の中で、AI(人工知能)やロボティクスの開発も進め、生産プロセスにもインテリジェンスを加えたい」と意気込む。