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アストラゼネカ、現場が能動的に行動する文化の醸成が工場サステナビリティの“鍵”

アストラゼネカ 執行役員 オペレーション本部長 濱田 琴美 氏

岡崎 勝己(ITジャーナリスト)
2023年4月14日

製造業は今、サステナビリティ(持続可能性)への貢献として温室効果ガスの排出量削減を求められている。英アストラゼネカ日本法人で執行役員 オペレーション本部長を務める濱田 琴美 氏が、東京で2023年2月に開催された「Manufacturing Japan Summit 2023」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン)に登壇し、同社のゼロカーボンに向けた取り組みと、その一環としての同社米原工場における取り組みについて解説した。

 「『IPCC AR6 WGI Report』と『Carbon Budget Project(2020-2022)』によれば、気温の上昇幅を産業革命前比で1.5度にまで抑えるには、グローバルで排出できる温室効果ガスの総量は280ギガトンしか残されていない。今の予測では、あと7年余りで限界に達してしまう」――。アストラゼネカ 執行役員 オペレーション本部長の濱田 琴美 氏は、温室効果ガス排出量削減が喫緊の課題の1つだと訴える。

写真:アストラゼネカ 執行役員 オペレーション本部長の濱田 琴美 氏

 英本社CEO(最高経営責任者)のパスカル・ソリオ氏は、「気候変動にはワクチンも治療薬も存在しない点で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以上の公衆衛生上の緊急事態である。できる限り早急にゼロカーボンを目指すべきだ」と強い危機感を持っているという。

 サステナビリティ(持続可能性)に対する企業の社会的責務は増す一方だ。だが、自社の製造工程だけでなく、サプライヤーから仕入れる部材の生産や、製品を製造した後の流通から使用、廃棄までのサプライチェーン全体での温室効果ガスの排出量を減らすためは、取引先の対応も求められるだけに一筋縄ではいかないのが現実だ。

2030年までにバリューチェーンの「カーボンネガティブ」を目指す

 そうした中、英製薬大手のアストラゼネカは、戦略的優先項目の1つに「社員&サステナビリティ」を掲げ、その目標達成に向け最大で10億ドルの投資を明言している。温室効果ガスについては、2025年までにグローバルでの排出量をゼロに、さらに2030年までにバリューチェーン全体で、排出量より吸収量のほうが多い「カーボンネガティブ」の達成を目標に掲げる。

 そのために、いくつもの施策を繰り出している。その1つが、温室効果ガス排出量削減の新基準「SBT(Science-based targets)イニシアチブ」に則った脱炭素化の加速だ。その目標は、2026年までのグループ事業における温室効果ガス排出量の98%削減(2015年比)、2030年までのバリューチェーン全体での50%削減(19年比)、2045年までの同90%削減(同)である(図1)。

図1:アストラゼネカは、スコープ1/同2で2026年までに温室効果ガス排出量の98%削減を、スコープ3では2030年までに同50%削減を目指す

 加えて3つの施策を実施する。すなわち、(1)RE100(Renewable Energy:再生可能エネルギー、100%)、(2)EV100(Electric Vehicles:電気自動車、100%)、(3)EP100(Energy Productivity:エネルギー生産性、100%)だ。

 濱田氏は、「グローバルサプライチェーンにおいて、スコープ1/同2における温室効果ガスの排出割合は全体のわずか3.9%。大半はスコープ3が占めるだけに、自社だけでは排出量ゼロを到底、達成できない。サプライヤーに理解と協力を仰ぎつつ、上流でのリース資産の削減や、患者さんが使用する製品のフットプリントの削減などから着手しているのが現状だ」と話す(図2)。

図2:アストラゼネカのグローバルサプライチェーンにおける温室効果ガス排出量の大半をスコープ3が占める

 ただ日本国内においては、温室効果ガスの排出削減量や吸収量の国の認証制度「J-クレジット」を利用し、消費電力については工場を含めた全拠点で再生可能エネルギーへの転換を2020年には達成済みだ。2021年からは、新東京オフィスでのRE100の利用を開始し、21年からは、それまで84%がハイブリッドカーだった営業車両車のEVへの切り替えを進めている。