• UseCase
  • 製造

大和ハウス、設計BIMに紐づく3Dモデルからメタバースを構築する仕組みを開発

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2023年8月28日

大和ハウス工業は、BIM(Building Information Modeling)データに基づく3D(3次元)モデルをメタバース内に再現し、PCやVR(Virtual Reality:仮想現実)デバイスなどを用いて閲覧できる仕組みを開発した。設計時のステークホルダーとの合意形成に必要な資料の作成やコミュニケーションの強化を図るのが目的だ。2024年秋の本格展開を目指す。2023年8月22日に発表した。

 大和ハウス工業が開発した「D's BIM ROOM(ディーズ ビムルーム)」は、設計BIM(Building Information Modeling)の建物情報を3D(3次元)モデルで再現し、AR(Augmented Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実)技術を使って閲覧するメタバース(図1)。担当者が遠隔地の施主などと共にアクセスして合意形成を図るなど、設計検討における業務効率を高め、ステークホルダー間のコミュニケーションを強化するのが目的だ。

図1:D's BIM ROOMのシステム概要図

 まずは2023年9月から、同社が建設する商業施設などで検証を開始し、1年後を目処に本格展開したい考えだ。上席執行役員 技術統括本部 副本部長の河野 宏 氏は「2017年に着手したBIMの全社活用では現在、建築部門における設計フェーズで100%活用できるようになった。今後は施工フェーズでの活用が始まる」と力を込める(写真1)。

写真1:大和ハウス工業 上席執行役員 技術統括本部 副本部長の河野 宏 氏

 D's BIM ROOMでは、設計BIMに基づく建物の3Dモデルを、遠隔地の会議室にあるPCから閲覧したり、AR/VRデバイスを用いて閲覧したりする。用途としては、建設予定地で3Dモデルを原寸大で投影して実際の大きさや外観、周辺環境を再現・共有したり、建物内の仮想空間で内装の仕上げや設備配置を確認したりを想定する。実寸モデルは、ID情報や位置情報を定義したQRマーカーを読み込むことで投影できるとしている。

 閲覧者はメタバース内にアバターとして投影され、会話や資料の投影などができる。外壁や床、天井などの仕上げ材をデジタル化された建材カタログから選べば、実物に近い建材のデザインや色味を比較できる。従来の施工前の打ち合わせでは、紙の設計図面や新たに作成した3Dモデルを使うのが一般的だった。

 大和ハウス 東京本社 技術統括本部 建設DX推進部 建設系設計グループ グループ長 の吉川 明良 氏は、「BIMデータは、単なる3Dモデルと異なり、属性情報を付与した設計図を出力できるのがメリットだ。建材カタログとBIMデータの連携により、メタバース上での打ち合わせ事項や候補建材の決定情報をBIMモデルに反映できるようになる」と説明する(写真2)。

写真2:大和ハウス工業 東京本社 技術統括本部 建設DX推進部 建設系設計グループ グループ長 の吉川 明良 氏

 加えてデータ連携により、「担当者は、建材情報を再入力したり画像を紐づけたりすることなくデータを利用できる。提案資料のためだけに3Dモデルを作成する必要もなくなり、働き方改革や人材不足などの課題にも対応できる」(吉川氏)とする。

 D's BIM ROOMの開発では、大和ハウスグループで企業向けメタバース基盤を開発する南国アールスタジオ製のメタバース「WHITEROOM」をベースに機能を追加した。今後の実際の現場での検証で、必要な機能を見極め追加もする。利用できるVRデバイスはMeta Questシリーズ(米Meta製)やHoloLens2(米Microsoft製)など。最大50人が同時接続できる。

 3Dモデルを作成するためのデータは、BIMソフトウェア「Revit」(米Autodesk製)から取得する。同社は、設計から施工、製造、維持管理などのBIMを共通データ環境に格納している。同基盤としては建設業向けクラウド基盤「Autodesk Construction Cloud」(米Autodesk製)を利用する。

 3Dモデルに反映する建材データとしては、大和ハウスグループで建設向けSaaS(Software as a Service)の開発するトラス製の建材管理プラットフォーム「truss(トラス)」が持つ建材データベースから取得する。建材の品番や性能値、画像などをD's BIM ROOMに出力する。

 trussの登録アイテム数は、壁材が3万、床材が2万、天井材は約1万だ。今後、建材データベースを強化するほか、全アイテムの画像の精度をメタバース上での利用に必要なレベルに高めていく。現在は一部アイテムしか、メタバース上での質感などの比較には利用できない。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名大和ハウス工業
業種製造
地域大阪市北区(本社)
課題建物の設計プロセスにおいて、設計者の業務効率を高めると同時に、遠隔地にいるステークホルダーとの合意形成を容易にしたい
解決の仕組みBIM(Building Information Modeling)データを用いて3D(3次元)モデルをメタバースとして構築する。デジタル化した建材カタログと連携し内装や仕上げも実際に近い映像にする
推進母体/体制大和ハウス工業、南国アールスタジオ、トラス
活用しているデータBIMデータ、建材情報など
採用している製品/サービス/技術メタバース「D's BIM ROOM」(南国アールスタジオ製メタバース「WHITEROOM」を元に開発)、BIMソフトウェア「Revit」(米Autodesk製)、建材プラットフォーム「truss」(トラス製)
稼働時期2023年9月(検証開始時期)