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三菱UFJグループ、金融サービス変革に向けたAI/ML活用を“文化×組織×基盤”で推進

岡崎 勝己(ITジャーナリスト)
2023年11月15日

MLワークフローの自動化で迅速活用を実現

 データサイエンスチームの体制や取り組みの整備と並行して整備したのが、AI/ML活用サイクルの自動化に向けた内製開発基盤「AQUAM(Autonomous and Quick Utilization of AI/ Machine Learning)」だ。堀金氏はAQUAMの設計について「3つの工夫を凝らした」と語る。

工夫1:3層アカウント構成

 AQUAMを利用するアカウントは、Development、Secured、Productionの3層構造を採っている(図2)。その理由を堀金氏は、「アカウントを目的別に使い分けることで、顧客情報を確実に保全するためだ」と説明する。

図2:AQUAMでは、作業段階と必要なデータ環境を踏まえて3層のアカウント構成を採っている

 具体的には、開発開始時はDevelopmentアカウントを使い、顧客データを含まないデータの活用を広く許容する環境で分析を検討し、目途が立ち次第、必要なライブラリをAmazon ECRに保管する。

 次にSecuredアカウントで、外部から遮断された環境で登録したライブラリを使って顧客情報を含むデータを分析する。目標精度が達成されると本番環境となるProductionアカウントでモデルを実装する。

 実装は社内の仕組み上、オペレーターに依頼する必要がある。だが、データの読み込み、変換、トレーニング、調整、デプロイメントといったMLワークフローを「Amazon SageMaker Pipelinesにより自動化を図ることで、オペレーター側の工数はほとんど生じず、迅速な活用につながっている」(堀金氏)という。

工夫2:AWSの活用

 AQUAMでは自動化の仕組みの実現などに、AWSが提供する各種サービスを活用している。ソースコードのコンパイルからテスト実行、デプロイまでのビルド作業を自動化する「AWS CodeBuild」や、ソース管理サービス「AWS CodeCommit」などだ。

 例えばCodeBuildの活用では、GitHubやHugginFaceから最新ライブラリーを取得した際、「AWS CodeCommit」を使ってクローンを格納している。クローンの利用により取得速度が高まるなどで、「ProductionアカウントでのPoC(概念実証)の効率が確実に高まっている」(堀金氏)

工夫3:APIによる他システムとの疎結合化

 AQUAMはAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)ゲートウェイを介してのみ他システムと疎結合で連携している。開発したモデルはProductionアカウントに実装されるが、「他システムと独立した環境に置くことで、万一の際の影響範囲が限定される。モデルの差し替えも、参照先の変更で済み容易だ」と堀金氏は話す。

PoCの期間が2週間から1日にまで短縮

 AQUAMの成果がすでに出始めている(図3)。稼働前後を比較すれば、PoC開始までの期間が2週間から早ければ1日に、PoCから本番までが6カ月から1カ月に、改善リリース期間は2週間から1日にと、それぞれ大幅に短縮した(図3)。

図3:AQUAMの稼働によりPoC(概念実証)の開始までや、本番開始、改善リリースのそれぞれの期間が大幅に短縮した

 D.A.T.Aの活動では、OSS(オープンソースソフトウェア)の利用を目標に掲げるようにもした。「ブラックボックスになりがちなAI/MLの分析結果の透明性の確保が目的だ」(堀金氏)。OSSを扱うメンバーの割合も、「従来のゼロから4割にまで高まった」(同)としている。

 ビジネスラインと共同してのAI/MLの業務活用の裾野も広がっている。これまでに、ポートフォリオの最適化や、契約書や営業日報を分析するための自然言語処理の仕組みを本番稼働させている。相場予測研究やデリバティブの時価計算の高速化の仕組みが「PoCの段階にある」と堀金氏は話す。

 MUFJは今後、金融サービスの革新に向けて、「AI/ML活用を市場部門から全社に拡大させ、運用の高度化にも取り組む計画」(堀金氏)だ。