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三菱UFJグループ、金融サービス変革に向けたAI/ML活用を“文化×組織×基盤”で推進
三菱UFJフィナンシャル・グループが、AI(人工知能)とML(機械学習)の両技術を使った業務改革に取り組んでいる。三菱UFJ銀行の堀金 哲雄 氏が「AWS Summit Tokyo」(2023年4月20日、21日)に登壇し、AI/MLによる業務改革の狙いや、データサイエンスチームが構築する内製開発基盤「AQUAM(Autonomous and Quick Utilization of AI/Machine Learning)」について解説した。(本記事はイベント開催時の講演に基づいており現時点では内容が異なる場合があります)
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、世界最大級の総合金融グループである。事業本部制を採用し、それぞれの戦略立案や施策運営、ニーズへの対応に取り組んでいる。その中で、金利(債券)・為替・株式のセールス&トレーディング業務などの顧客向けビジネスと、MUFG自身の資産・負債・各種リスクの管理業務を担当するのが市場事業本部である。
「市場事業本部の業務では、個人、企業を問わず、顧客の取引状況やマーケット情報をどこまで精緻に分析できるかが鍵を握る」――。こう語るのは、三菱UFJ銀行の市場企画部 市場エンジニアリング室でクオンツ開発Grイノベーションラインのチームリーダーを務める堀金 哲雄 氏だ(写真1)。
クオンツとは、市場や商品などを数学的手法を用いて分析すること、あるいは、その分析の担当者を指す。堀金氏は、そのクオンツとして三菱UFJ銀行で約9年間、金融工学を用いたモデルやライブラリの開発に従事してきた。
同業務におけるAI(人工知能)/ML(Machine Learning:機械学習)の活用が本格化してきた2021年からは、データサイエンスチーム(現イノベーションライン)の立ち上げを主導し、現在は同チームの統括に就いている。
AI/ML活用に向け真っ先に取り組んだ“意識改革”
精緻なデータ分析に向け市場事業本部は、データの収集/集約とAI/MLによる業務改革を戦略に掲げている。堀金氏は、「AI/ML活用の理想像は、(1)データ蓄積、(2)AI/MLによる分析、(3)業務高度化、(4)業務拡大のサイクルを確実に、かつ、できる限り早く回すことだ」と指摘する。
だが現実には、「ステップごとに“壁”も多い」(堀金氏)(図1)。その背景には例えば、「単にデータレイクを整備しただけでは全業務のデータ格納には、なかなか至らない」「アクセス制限が厳しくデータを活用しにくい」(同)ことなどがある。
AI/MLの活用では、「試行錯誤が伴いがちで、ROI(Return On Investment:投資対効果)を明確化しにくいのも難点だ」と堀金氏は言う。「それだけ予算確保が難しく、外部への作業依頼時には足かせにもなり得る」(同)からだ。
業務の高度化に向けても、「導入した仕組みも、担当者が納得しないと使ってもらえず、たとえ実運用に至ったとしても、本番環境でモデル精度が低下するデータドリフトにおり、分析結果の活用が止まることもある」(堀金氏)
これらの課題を克服するために、堀金氏が取り組むのが「D.A.T.A」である。「D:Direct(より業務近くに)」「A:Agile(より早く)」「T:Transparent(現場、経営双方に納得感のあるソリューション)」「A:Awesome(傑出したソリューション)」の4項目を示し、「データサイエンスチームの文化や価値観を表し、これらを醸成することで意識改革を図る」(堀金氏)のが目的だ。
「D.A.T.A」を基にデータサイエンスチームのあり方も抜本的に見直したとする。その1つが、「データサイエンティストがビジネスラインと直接やり取りするようした」(堀金氏)こと。速さや透明性の確保に向けては、「課題定義からPoC(Proof of Concept:概念実証)、本番、運用まで一気通貫に手掛け責任を負えるよう業務と責任範囲を見直し、ビジネスラインと組んだチームが一丸になり、より大きな成果を追求できる体制を整えた」(同)という。
ビジネスラインと共に一気通貫でAI/MLの活用に取り組むためには、「データサイエンティストは次の3つの力が求められる」と堀金氏は指摘する。(1)ビジネス課題を整理し解決するビジネス力、(2)データを意味のある形に実装・運用するデータエンジニアリング力、(3)情報科学系の知恵を理解して使うデータサイエンス力だ。
この点を踏まえ堀金氏は、データサイエンスチームのメンバーに金融工学モデル開発者やソフトウエア開発者を選抜。2021年度のメンバー数は5人と、まさに少数精鋭になっている。チームは業務時間の2割を使ってリスキリングを進めると同時に、新卒採用や中途採用にも積極的に動いている。