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建設大手の蘭VolkerWessels、建設廃棄物の削減に向け「マテリアル・パスポート」を使い材料選択を最適化

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年2月27日

材料の使用履歴を追跡してプロジェクトの環境性能を見直す

 材料や素材の見直しなどにおいて、VolkerWessels Infrastructureが判断のための指標にするのが、「マテリアル・パスポート(Material Passport)」である。各種材料の使用履歴をデータベース化するシステムで、材料がどのサプライヤーから提供され、どのプロジェクトで使われたのかのトレーサビリティ(追跡可能性)を確保できるよう欧州を中心に標準化と利用が進む。

 マテリアル・パスポートとして提供されるデータの中身には、(1)トンネルや橋、建物など資産の識別情報、(2)資産を部品レベルに分解した情報、(3)どこで、どれが、どれだけ使用されたか、(4)各材料の組成、(5)再利用またはリサイクルの可能性評価、(6)資産の性能を表すベンチマーク情報などが含まれる。

 これらの情報を用いることで「対象物の組成を設計者が深く理解したり、採用した材料の再利用可能性について洞察を得たりが可能になる」とティシャウザー氏は話す。「対象物のメンテナンス性や期待される寿命から、インフラのために、より優れた構成部品を選択できる」(同)わけだ。

 マテリアル・パスポートを利用するためにVolkerWessels Infrastructureでは、プロジェクトごとに材料や部品を可視化するためダッシュボードを構築している。建築の各段階で「材料などが、どの程度循環的かをスコアリングし、進ちょくをパーセンテージで確認できる」(ティシャウザー氏)ようにした(図2)。

図2:材料の使用履歴をもとに循環性スコアをダッシュボードに表示したイメージ

 その結果は、製品ライフサイクルの環境性能を表すEPD(Environment Product Declaration:環境製品宣言)など法律やガイドラインに則った報告書として作成し、「社内だけでなく、ステークホルダーに対し具体的な財務価値を示すことに役立てている」(同)という。

 ダッシュボードは、BIM(Building Information Modeling:建物情報モデリング)ソフトウェア「Revit」(米Autodesk製)で設計したモデルをDPP(Digital Product Passport:デジタル製品パスポート)ソフトウェア「Madaster」(蘭Madaster製)に取り込んで実現している。RevitとMadaster間の相互運用性は、「IFC(Industry Foundation Classes)ファイルを用いて確保した。

循環型の設計と建築で限られた資源を最大限に活用する

 マテリアル・パスポートに基づく素材の環境スコアリングについてティシャウザー氏は、「設計段階において持続可能な材料を選択できることにメリットがある」と強調する。同時に「一時的な記録票ではなく、材料に変更があるたびに反復的に更新する必要がある」(同)と指摘する。

 何世代も使用される橋梁やトンネルなどを手がける同社にすれば、「情報を常にメンテナンスし、長期的に利用できることが重要」(ティシャウザー氏)だからだ。「将来のプロジェクトで再利用できるよう解体や切断が容易な構造体の設計にも取り組み、廃棄物を最小限に抑えながら各プロジェクトのスコアを高めていく」(同)

 ティシャウザー氏は、「短期的には建築に効果的かつ最適なメンテナンスを実施するためだが、長期的には循環型の設計と建築を選択し、限られた資源を最大限に活用できるようになる」と大きな期待を寄せている。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名蘭VolkerWessels Infrastructure
業種製造
地域蘭ユトレヒト州フィアーネン
課題建設・解体廃棄物を削減したい
解決の仕組み材料の使用履歴を記録・管理するためのマテリアル・パスポートを導入し、プロジェクト全体で使用される材料を追跡して使用方法を見直す
推進母体/体制蘭VolkerWessels Infrastructure、蘭Madaster、米Autodesk
活用しているデータマテリアル・パスポート(建築資産の使用履歴、材料の組成、再利用/リサイクルの可能性評価、資産の性能など)、建築物の設計データなど
採用している製品/サービス/技術DPPソフトウェア「Madaster」(蘭Madaster製)、BIMソフトウェア「Revit」(米Autodesk製)
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