- UseCase
- 公共
東京電力、「TEPCO DX」の推進に向け大規模アジャイル開発手法を全社展開
「Japan SAFeシンポジウム 2024」から
研修開始からデータ活用基盤の実装までを約1年で実施
特にトランジションパートナーは、「新たな領域を担うための重要な考え方」(関氏)とし、その実現に向けて、大規模アジャイル開発手法の「SAFe」への取り組みを開始した。「イノベーション、未知への挑戦、試行錯誤といった新しいビジネス能力と組織能力を獲得するためにはリーンアジャイルな考え方が必要と考えたからだ」と関氏は説明する。
SAFeを適用して開発するのが「TEPCO Data Hub」である。ゼロカーボンの実現に向けて徹底的なデータ化を実現するためのプラットフォームに位置づける(図3)。同社が保有する2900万軒の顧客データや、600万本の電柱などの電力インフラデータ、約3万人の社員のノウハウ・知識などをTEPCO Data Hubに集約し、その分析・活用により価値競争力や生産性を高めるとともに、カーボンニュートラルのための社会インフラの地位を獲得をしたい」と関氏は意気込みを隠さない。
ただ同社におけるアジャイルへの取り組みは当初、「個人任せだった」と関氏は振り返る。その後、システム部門が主導する形で導入を進めたものの、「社内に『アジャイル=スピーディなスパイラル開発』という誤った認識が広がった」(同)。それが「SAFeを導入する契機になった」(同)という。
2022年度からは、SAFeを定着されるための道筋を示す「インプリメンテーションロードマップ」を経営陣自らが学び、「アジャイル思想を組織全体に展開しようと取り組んでいる」(関氏)。まずは研修を強化し、SAFeの全体像を学ぶ「Leading SAFe」や、経営戦略マネジメントの上流を学ぶ「Lean Portfolio Management」などを実施した。
研修フェーズをステップ1(2022年9月〜12月)とし、TEPCO Data Hubの構築へのSAFe適用を準備するフェーズをステップ2(2023年1月〜3月)とした。2023年4月からは実装フェーズとなるステップ3を開始し、TEPCO Data Hubの実装自体は2023年11月末に完了した。
SAFeは「企業マネジメント手法の好事例を体系化した方法論だ」
こうした経験を得た関氏は、SAFeについての次の持論を展開する。1つはSAFeの理解においては「Lean(リーン)の考え方が重要だ」ということである。
SAFeやアジャイル開発について関氏は、「その考え方は、トヨタ生産方式(TPS)の“カイゼン”が原点にある。TPSでいう『つど処理』『1個流し』などの考え方が欧米に渡り、日本に再輸入される際に『リーン』という言葉になった」と説明する。
そのうえで関氏は、「システム開発プロジェクトにおけるアジャイルを『狭義のアジャイル』とすれば、SAFeは『広義のアジャイル』と理解できる。システム開発のためのアジャイル開発手法と変革のためのアジャイル経営手法などを目的に的に応じて選べば良い。SAFeは、アジャイル開発とアジャイル経営がミックスされてパッケージ化された“アジャイル経営”であり、そのために求められるマネジメント手法の好事例を体系化した方法論である」とする。
SAFeの活用に向けては、「コーチの存在が重要だ」と関氏は強調する。東京電力はSAFeの導入に際し「LACE(Lean-Agile Center of Excellence)」を立ち上げル際に「経験者を招き入れた」(関氏)。「間違った理解は修正に時間がかかり、結果としてアジャイルが社内から抵抗を受けることにつながる。さまざまな質問に納得性がある、経験者からの回答が非常に重要」(同)と考えたからである。
また開発体制については、「従来のシステム開発のように、システムインテグレーターへの請負契約で進めるのは難しい。当社では基本、情報子会社による内製で対応している」(関氏)という。
最後に関氏は、東京電力がSAFeを使い始めた理由を改めて強調する。「電力業界は変革が不可欠であり、カーボンニュートラルには正解がない。コストダウンに向けては6年前からトヨタから特別顧問を招聘しカイゼンの考え方を叩き込んできた。SAFeが掲げるコンセプトや実践は、それと全く同じだ」(同)という
SAFeの取り組みについては、「現状、リーンポートフォリオマネジメントといった経営レベルには達していないものの、今後も徹底的なデータ化により、ステークホルダーとつながり信頼を築いていく」(関氏)とする。そのうえで「地球温暖化、激甚化する気候変動を抑止し生物多様性の維持を目指す一翼を担っていきたい」と意気込みを語る(図4)。