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東京電力、「TEPCO DX」の推進に向け大規模アジャイル開発手法を全社展開

「Japan SAFeシンポジウム 2024」から

阿部 欽一
2024年3月21日

東京電力(TEPCO)が、電力安定供給とカーボンニュートラルとを両立する事業構造変革に取り組んでいる。東京電力ホールディングス 常務執行役でCIO(最高情報責任者)/CISO(最高情報セキュリティ責任者)である関 知道 氏が、「Japan SAFeシンポジウム 2024」(主催:米Scaled Agile、2024年2月7日)に登壇し、同社のデータ活用基盤「TEPCO Data Hub」をリーンアジャイル開発手法で構築した際のポイントを解説した。

 「日本そして世界の電力業界には『5D』と呼ばれるメガトレンドがある。(1)Deregulation(規制緩和)、(2)De-Centralization」(太陽光や風力などの分散電源)、(3)De-Carbonization(脱炭素)、(4)De-Population(人口減少)、(5)「Digitalization(デジタライゼーション)あるいはDX(デジタルトランスフォーメーションだ)−−。東京電力ホールディングス 常務執行役でCIO(最高情報責任者)/CISO(最高情報セキュリティ責任者)である関 知道 氏は、こう話す(写真1)。

写真1:東京電力ホールディングス 常務執行役でCIO(最高情報責任者)/CISO(最高情報セキュリティ責任者)である関 知道 氏

 東京電力(TEPCO)は、日本の約3分の1に当たる2900万軒に電気を届けている。2005年の高圧電力自由化を契機に電力システム改革に段階的に着手。2016年の電力全面自由化の年にはホールディングスカンパニー制に移行した。2020年には送配電部門が法的に分離された。2022年度の業績は2800億円の経常損失になった。「燃料費の高騰を受け赤字販売が続いている」(関氏)ためだ。

“徹底的なデータ化”を図り2つの価値を高める

 冒頭の5Gに対し、「なかでも我々が直面する新たな変化は2050年に向けたカーボンニュートラルの達成だ」と関氏は強調する。同社は2022年に「カーボンニュートラル曲線」を発表した。横軸を日本におけるCO2排出量、縦軸をCO2削減策のコストとし、CO2削減施策をそれぞれコスト順に示している。施策には、断熱やEV(電気自動車)、電化、太陽光や風力による発電、工場など産業の水素化などがある(図1)。

図1:東京電力が2022年に発表した「カーボンニュートラル曲線」

 図1から得られる示唆として関氏は、「カーボンニュートラルは『エネルギー業界だけでの問題ではない』ということだ」と指摘する。製造業や金融、メディアなど、さまざまな業界が参加・実施しなくてはならない「非連続な挑戦である」(関氏)。電力業界では特に、「電源の脱炭素化と電化の推進にスピーディに取り組んでいく必要がある」(同)とする。

 そこで必要になるのが、「テクノロジーでありDXだ。そしてDXとは、これまでの“勘”“コツ”“度胸”からデータドリブンな事業運営に変革していくことだ」と関氏は話す。

 TEPCOとしては、「“徹底的なデータ化”をベースにしたDX戦略『TEPCO DX』を掲げ、電力の安定供給とカーボンニュートラルを両立する事業構造変革に取り組んでいる」(関氏)。同戦略により「カーボンニュートラル社会の実現を通して、人類の持続可能性の担保、つまり、地球温暖化、激甚化する気象変動を抑止し、生物多様性を維持する一翼を担っていきたいと考えている」と関氏は力を込める(図2)。

図2:東京電力が“徹底的なデータ化”でカーボンニュートラルな社会の実現を目指す

 TEPCO DXの“徹底的なデータ化”には「2つの価値がある」と関氏はいう。(1)業務プロセス価値と(2)ステークホルダー価値だ。業務プロセスに対しては、「データを集めるだけでなく、これを使って比較・分析して知見を得ることや、データの流通により業務プロセスの価値が高まっていく」(同)とする。

 ステークホルダーに対しては、「データでお客様とつながり、社会とつながり、取引先や社員、設備とつながることで信頼を築いていける」と関氏は説明する。その上で、電力の安定供給を担う「電力ワンストップ」と、カーボンニュートラルの社会実現に向けた「トランジションパートナー」という2つのビジネスモデルを展開する。