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長島梱包、業界課題を乗り越えるため梱包業務向けSaaS事業を立ち上げ
梱包現場の課題解決を主軸に必要な機能を開発
3年の構想から生まれた梱包事業者向けSaaSであるPAXでは、梱包現場の課題解決に主軸を置いた。具体的には、(1)スケジュール調整、(2)単価に見あった見積もり、(3)梱包設計案の自動化、(4)エビデンス管理の4つである。
スケジュール調整では、案件ごとの進捗を一覧管理できるようにした。荷物の着荷予定、梱包の締切日、コンテナへの積載日などを管理する。「進捗状況を可視化し、最新の状況を共有することでスケジュールの調整業務の効率を高められる」と長島氏は説明する。梱包業界ではスケジュールや案件は「Excelや手書きで管理しているケースがまだまだ多い」(同)という。
見積もり作成では、荷物の大きさや重量から、必要な強度を満たすのに必要な木材量などを計算し、木材単価を加味して算出。見積書も自動で作成する。長島氏によれば、「従来は、市場の相場感を元に設定した単価で見積もっており、蓋を開けると赤字ということが良くあった」。
「損をしないための見積もり」(長島氏)の前提になるのが、梱包設計案の自動作成である。荷物に合わせて、必要条件を満たせる梱包設計案をJIS(日本産業規格)を満たす形で生成する。現時点では「8〜9割の精度で設計できており、人手で多少の修正を加えれば現場で使用できるレベルになる」(同)という。
梱包設計は、「規格に沿いながらも、各社それぞれのノウハウに基づいており、一定以上の熟練者でなければできなかった」(長島氏)。PAXでは、「経験が少ない担当者でも設計業務に関われるようにする」(同)のが目標だ。
エビデンス管理とは、品質保証のために荷主に提出する梱包状況などを撮影した写真を管理すること。PAXでは、荷物に貼り付けたQRコードをスマートフォンで読み取った後、梱包の各過程を撮影すれば登録が完了し、管理者はPC上で一覧できる。
荷物の外観写真は、多くの梱包事業者が「梱包開始、梱包中、梱包完了の各段階で撮影し管理している」(長島氏)という。長島梱包では従来、写真はカメラのSDカードに保存し、SDカードを事務担当者に渡し整理していた。ただ「複数案件の写真が混在するため、ファイルを開いたり拡大したりしながら案件別に整理する必要があった。単純ながら通常業務の終了後に作業していた」(同社デジタル推進室 課長の山口 裕巳 氏)という。
自社活用ではデータ分析が大きな成果に
PAXは長島梱包自身の業務システムでもある。山口氏は、その効果について「現場のデータを分析できるようになったことが大きな成果だ。梱包に使用した木材の量や部材の割合なども、従来は管理職が設計指示書を手書きで写すなどして計算していた。全データが蓄積されるため、各種帳票の出力や統計分析などが楽になったという声が挙がっている」と話す。
今後は、エビデンスを荷主と直接情報共有する仕組みを2024年夏頃に目処に実装する。2024年秋から冬にかけては、コンテナへの荷物の積み込み計画を作成するバンニングプラン機能の実装に取り組む計画だ。他社への提案活動の中で「業界に必要なアイデアを得られることもある。現場の声を優先的に拾い上げ、アジャイル(機敏)に機能を改善していく」と山口氏は意気込む。
PAXの顧客としては、2024年3月時点で1社が導入済み。「2社、3社目が初期段階の検討を始めている」(山口氏)。採用時にはデジタル推進室が導入を支援し、帳票などカスタマイズして提供する。利用料金は、カスタマイズのための初期導入費用30万円(税別、以下同)と、ライセンス数に応じた月額利用料5万円からの2段階制にしている。「今後3年間に20社、70ユーザーの獲得を目指す」(長島氏)という。
梱包業界の地位向上を目標にするSaaS事業の成長について長島氏は、こう展望を語る。
「まずは梱包事業者向けの機能拡充に注力する。荷主や物流会社からの梱包受付機能の実現や、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)連携などによる梱包関連データの提供、生成AI(人工知能)技術を使ったデータ分析の高度化も考えている。ただエビデンス管理機能などは、梱包業界以外でのニーズも聞こえてくる。まずは業界の標準サービスとしての定着を狙いながら、周辺領域でも使えるサービスに育てたい」
企業/組織名 | 長島梱包 |
業種 | 物流 |
地域 | 横浜市(本店) |
課題 | 荷主と輸送会社との中間事業者になる梱包会社は、単価を抑え込まれており、梱包業界全体のプレゼンス(存在感)を高めなければ利益を生み出せない |
解決の仕組み | 自社業務のデジタル化で得たノウハウを標準化し、梱包業界用SaaSとして提供することで、同業他社のデジタル化も支援し、業界全体としての地位向上を図る |
推進母体/体制 | 長島梱包 |
活用しているデータ | 梱包する荷物のサイズや重量、梱包材の量、輸送スケジュール、梱包時に撮影した写真など |
採用している製品/サービス/技術 | 梱包事業者支援SaaS「PAX」(長島梱包製)、動作環境としてのAWSクラウドサービス(米Amazon Web Service製) |
稼働時期 | 2024年3月(サービス提供開始日) |