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長島梱包、業界課題を乗り越えるため梱包業務向けSaaS事業を立ち上げ
東日本を中心に梱包事業を手掛ける長島梱包が、梱包事業者向けのSaaS(Software as a Service)事業を立ち上げた。自社のDX(デジタルトランスフォーメーション)にとどまらず、同業他社のデジタル化を支援することで業界の課題を解決し、物流における梱包業務の付加価値向上やプレゼンス(存在感)を高めるのが狙いである。
「梱包単価は輸送事業者から抑え込まれている。当社だけでなく、梱包業界全体のプレゼンス(存在感)を高め単価も上げていかなければ、利益を生み出せない」――。東日本を中心に事業展開する長島梱包の専務取締役である長島 祐平 氏は、危機感を隠さない(写真1)。同氏は長島梱包のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の推進担当でもある。
業界の課題解決に向けて長島梱包が投入するのが、梱包事業者を対象にしたSaaS(Software as a Service)の「PAX(パックス)」である(図1)。梱包業務における見積もりから受注、梱包、請求までをカバーするサービスとして2024年3月に提供を開始した。
PAX投入の経緯について長島氏は、「システム開発のコンセプト段階では自社の業務改善が目的だった。だが、同業他社と話す中、デジタル化に向けた課題は共通だと分かった。業界全体の業務効率を高められる仕組みを提供することがプレゼンスの向上につながると判断した」と説明する。
オーダーメイドにもかかわらず荷主や輸送業者との情報共有が図れていない
梱包事業者は、フォワーダーと呼ばれる物流会社や製造元からの依頼を受け、機械やマテハン機器などの重量物や、美術品などの高額で壊れやすいものなどを海運コンテナを使って安全に運べるよう梱包するのが役割だ。
一般的な宅配向けの梱包では、規格化された段ボールなどを用いるのに対し、機械や美術品などは、それぞれに大きさや重さが異なるため、木材や合板、強化ダンボールなどを用いて専用の梱包材をオーダーメイドで作成する。「実物を見ながらサイズを測り、それに合う木箱を設計し、必要な木材を切り出して組み上げる。作業内容は製造業に近い」(長島氏)という(写真2)。
荷主と運送をつなぐ中間業者としての課題を長島氏は、「モノが届いてから梱包し、運び出すまでの業務プロセスにおいて情報不足に陥っていることだ」と指摘する。「コンテナの出港に間に合わせるために梱包会社がスケジュールの調整弁になっており変更が多い。にもかかわらず物流会社からは、なかなか荷物の情報が届かず、実物が届くまで何を梱包するのかすら分からないこともある」(同)
加えて、「料金の見積もり時に梱包材となる木材の単価を加味して計算しなければならないなど特殊な要件が少なくない」(長島氏)。そのため、「スケジュール管理や案件管理など、梱包業界以外では当たり前に利用されているシステムが導入されていないのが実状だ」(同)という。
創業98年を迎える長島梱包自身は、「10年ほど前から業務のデジタル化に取り組み、一定の成果を出してはきた」(長島氏)。だが、上述したような梱包現場を対象にしたデジタル化では「業界標準になり得る製品/サービスは見当たらず、自分たちで作ると決断した」(同)。それが3年前のことである。