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半導体材料のレゾナック、日本が強みを持つ後工程の競争力を“共創”でさらに強化

「Manufacturing Japan Summit 2024」より、レゾナック業務執行役の阿部 秀則 氏

森 英信(アンジー)
2024年4月15日

顧客と同じ装置で実験ができる「パイロットライン」を設け共創を加速

 レゾナックが進める他社との連携強化の一例が、川崎市・新川崎に設けた「パッケージングソリューションセンター」での共創だ。8000平方メートルの広さを持つ同センターに、顧客と同じ装置を使った実験ができる「パイロットライン」を設け、半導体パッケージの製造プロセスの開発に取り組む。

 当初は材料開発の実証が主だった。その後、日本の装置材料メーカーとの共同研究を展開するようになった。研究対象は、(1)FO-WLP(Fan Out Wafer Level Package)やPLP(Panel Level Package)といったパッケージング技術を開発する「JOINT1」と、(2)2.XD(2.X次元)や3D(3次元)の積層構造を研究する「JOINT2」とに分けている。

 2021年に始まったJoint2はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトでもある。レゾナックがリーダーを務め、必要なプロセス技術を持つ企業に参加を呼びかけコンソーシアムを形成した」。阿部氏は、「参加企業それぞれが各自の強みを活かしながら、強力な共創力を持って技術課題に取り組んでいる」と強調する。

 JOINT2には、A、B、Cの3つのワーキンググループ(WG)がある(図2)。WG-Aは、チップに微細な金属端子を接続する技術を開発しており、「これまでの数十ミクロンピッチを10ミクロンピッチまで縮小するのが目標」(阿部氏)だ。WG-Bは、後工程での微細配線に取り組み、「1ミクロンのラインとスペースの実現を目標にする」(同)

図2:JOINT2コンソーシアムに参加する企業とワーキンググループの研究内容

 WG-Cは、パッケージ基板の大型化に対応するための多数のチップ搭載技術を開発する。将来的には「従来の50ミリ角から140ミリ角まで大型化する可能性があるパッケージ基板に対応したい」(阿部氏)としたうえで、こうした共創の必要性を、こう説明する。

 「例えば、材料メーカーが顧客から不具合の指摘を受ければ改善策を模索する必要がある。装置/半導体メーカーにも似たような要求があるが、材料メーカーと装置メーカーは互いの活動内容を完全には理解しておらず、提案する解決策がうまく噛み合わないことがある。その解決に向けては、互いの制約を理解しながら共同で研究開発を進めることが重要だ。その手段の1つが、共創の場やJOINT2のようなコンソーシアムの形成である」

 先端技術領域の共創においては知的財産権(IP)の扱いが気になるところだ。これに対し阿部氏は、「コンソーシアムでは各社のIPをそのまま保持しながら、共同開発した成果は共有する契約を結んでいる。参加企業には開発スピードを高め、より良い製品を作れるというメリットが生まれる。材料/装置メーカーは、最終的に半導体メーカーによる製品購入が目標なだけに、これこそがコンソーシアムの最大のメリットだ」と説明する。

 レゾナックは海外での共創も積極的に進めている。米カリフォルニア州シリコンバレーでは、「新たな技術やAIに関する研究開発センターの設立する計画で、2025年の稼働を目指している」と阿部氏は明かす。

 それに先行する米テキサス州オースチンでは、テキサス大学とのコンソーシアム「Advanced Semiconductor Consortium(TIE)」を形成している。米AMDや米インテルなどの半導体メーカーと共に最先端材料の研究開発に取り組む。「2世代ぐらい先を見据えた野心的なプロジェクトになっている」(阿部氏)という。

カーボンニュートラルとサプライチェーン管理の最適化も推進

 材料研究と並行してレゾナックが重要な領域として取り組むのが、カーボンニュートラルとサプライチェーン管理だ。前者では「2030年に2013年基準でCO2排出量を30%削減し、2050年のカーボンニュートラル達成を目指す」(阿部氏)。いずれも半導体業界における大きな流れであり、レゾナックは「半導体気候関連コンソーシアム(SCC:Semiconductor Climate Consortium)」にも設立メンバーとして参画する。

 特に、エッチングガスなど温室効果ガス(GHG)の排出係数が高い物質の代替品開発に力を入れている。半導体製造の後工程におけるCO2排出量を自ら計算し改善策を模索する。パッケージの種類によって異なるGHG排出量も独自に計算し、半導体メーカーにあっては「熱を使った工程が重要な排出源であることを明らかにした」(阿部氏)。こうしたデータを基に、排出量削減に向けた改善策を検討していく。

 一方のサプライチェーン管理では、半導体不足の課題に直面する中で、「500社以上の原材料メーカーからなる複雑な供給網を管理している」(阿部氏)。顧客の需要予測に基づき、原材料を適切に配分し、供給不足が発生しないよう努力している」と阿部氏は説明する。

 「これらの取り組みが適切に機能すれば、サプライチェーン全体のCO2排出量の削減だけでなく、不適切な労働条件への対応が可能になると考えている」と阿部氏は力を込める。