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半導体材料のレゾナック、日本が強みを持つ後工程の競争力を“共創”でさらに強化
「Manufacturing Japan Summit 2024」より、レゾナック業務執行役の阿部 秀則 氏
半導体・電子材料メーカーのレゾナックは、オープンイノベーション(共創)を通じた「共創型化学会社」を目指している。同社の業務執行役 兼 エレクトロニクス事業本部 副本部長の阿部 秀則氏が、「Manufacturing Japan Summit 2024」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン、2024年2月14日)に登壇し、業種・業界を越えた協力や連携の重要性と、レゾナックの取り組みなどについて解説した。
「半導体業界は現状、厳しい状況にある。今後、1兆ドル規模の市場を目指していくために、増産能力の確保と研究開発能力の拡大に取り組む」−−。半導体・電子材料メーカー、レゾナックの業務執行役 兼 エレクトロニクス事業本部 副本部長の阿部 秀則 氏は、同社の現状をこう語る(写真1)。
レゾナックは、日立化成と昭和電工の合併により2023年に誕生した会社である。「Resonac(レゾナック)」という社名は、「共鳴する」という意味の「Resonate」と、「化学」を意味する「Chemistry(化学)」を組み合わせたもので、「共創型の化学会社を目指す思いが込めている」(阿部氏)。技術に対する要求が高まる中でレゾナックは、「顧客だけでなく、原材料メーカーや装置メーカーとともに共創を進める」と阿部氏は強調する。
同社の売上高は2023年に1兆2889億円で、そのうち26%が半導体および電子材料に関連する。阿部が所属するエレクトロニクス事業本部は、半導体製造の初期段階に必要になる特別なガスや、表面を平滑にする材料、半導体を固める樹脂などを開発・販売する。ほかにも半導体の各層の接着材、基板材料、外層の保護材料なども扱う。
阿部氏は、「ハードディスクや特殊なウェハーの分野での成長も遂げており、自動車、化学、健康関連製品など多岐にわたる事業を展開している。グループ全体として半導体材料事業を成長事業に位置づけ、リソースを集中的に投入する」と説明する。
合併した2社の強みを生かし研究開発を活発化
半導体材料の製品開発において、旧昭和電工は特殊樹脂などの化学製品に強みを持つ企業だった。一方の旧日立化成は半導体材料の複合化や評価技術に優れていた。合併により「素材から複合材料までを提供できる環境が整った。両社統合から2年が経過し、互いの情報開示が進み、原材料の開発が活発化している」と阿部氏は力を込める。
材料の分析手法においても両社ノウハウの融合が進む。旧昭和電工は、さまざまな先端技術を駆使していたのに対し、旧日立化成は、データベースを用いた統計解析に力を入れてきた。
両者の組み合わせにより、例えば半導体の材料開発において、「顧客の要求に応えるために多様な材料を組み合わせて製品を作り出す能力を、昭和電工が研究していた擬似量子コンピューティングによって強化することで、従来、数十年を要していた作業が数十秒で完了するようになった」(阿部氏)という。
材料特性の探索では、VR(Virtual Reality:仮想現実)空間を使った分子シミュレーション技術の利用も始めている(図1)。「2次元では分からない分子の動きを可視化し、研究者が直接体験することで、より優れた製品開発につながっている」と阿部氏は、その効果を説明する。
こうした研究開発力を背景に、レゾナックは、いくつものトップの地位を獲得している。半導体材料分野では、シリコンウエハーメーカーを除くと世界第1位である。2021年の売上高は約2665億円で、うちパッケージ材料分野が1853億円だ。阿部氏は、「後工程の材料に関する独自の技術と、顧客へのトータルソリューションの提供能力によるものだ」と説明する。
最近注目を集める生成AI(人工知能)に関連し、米NVIDIAが台湾TSMCに製造依託する「2.5Dパッケージプロセス」が話題になっている。メモリーの積層やシリコン貫通電極による配置など、より複雑な構成が特徴だ。この2.5Dパッケージにおいてもレゾナックは基板製造でも高いシェアを持つ。特に放熱材となるシートタイプ材料のシェアは「100%だ」(阿部氏)という。
生成AIの需要増加に伴い同社は2024年3月、高性能半導体向け材料の工場増設を発表した。「約150億円を投じて2027年に稼働させ、従来の3〜5倍に生産能力を増やす」(阿部氏)
日本企業が強い後工程は利益率が低くプレイヤーも分散
現在の半導体業界は、NVIDIAなど数社の大手デバイスメーカーが牽引している。だが阿部氏は、「技術開発の根幹は装置メーカーによって支えられている」と指摘する。ただ「2ナノメートルプロセスなどの先端技術の実現には莫大なコストがかかり、技術開発は経済的な難易度も高まっている」(同)のが実状だ。
そうした背景から、「注目が高まっているのがパッケージ工程だ」と阿部氏は語る。日本の半導体業界が世界市場でシェアを失う中、「材料メーカーはまだ強みを持っており、半導体材料では日本は55%のシェアを保持している」と阿部氏は強調する。ただ「米国企業が強い前工程は利益率も高い。日本企業が強い後工程は利益率の最大化には至っていない」(同)
加えて後工程では、「装置や材料分野には多くのプレイヤーが存在し、市場はより分散している」(阿部氏)。そのため最近は、「後工程の重要性と、共創やコラボレーションの必要性が高まっている。前工程の大手装置メーカーが後工程の企業との連携を進める動きも見られる」(同)という。
コラボレーションの重要性と利益率の関係をレゾナックが分析したところ、「製品の市場での成功(マーケットトラクション)とコラボレーションの数を掛け合わせた指標が、特に前工程の装置で営業利益率と高い相関を示すことが分かった」と阿部氏は説明する。「前工程の装置では、マーケットトラクションが400に達する企業もあり、これが高い利益率につながっている」(同)わけだ。
一方の後工程の装置は「マーケットトラクションの最高値が100程度だった。後工程材料では、さらにマーケットトラクションが低く、シェアや利益率の最大化に至っていない」と阿部氏は説明する。
今後は、「半導体の後工程が技術的な付加価値の源泉になり注目されることが予想される」(阿部氏)。その変化に対応するためには、「マーケットトラクションを高めるための戦略が重要にある。そのためには市場シェアの向上やM&A(企業の合併と買収)、外部との技術的な連携やコラボレーションの活発化が必要になる」と阿部氏は強調する。