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ヤンマーホールディングス、“隠れDX人材”を掘り起こし自社の成功例をテコにデジタル化を推進

ヤンマーホールディングス 取締役 CDO 奥山 博史 氏

森 英信(アンジー)
2024年7月16日

ヤンマーホールディングスがデジタル化を推進するに当たり、社内の意識改革や人材育成などに取り組んでいる。同社取締役でCDO(Chief Digital Officer)の奥山 博史 氏が、「CIO/CISO Japan Summit 2024」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン、2024年5月)に登壇し、ヤンマーホールディングスにおけるデジタル化の取り組みと、それを推進するための考え方などを説明した。

 「建設機械の事業担当からCDO(Chief Digital Officer)に就任した。役割は、ITを駆使し次世代の経営基盤を築くことだ」−−。ヤンマーホールディングスの取締役 CDOの奥山 博史 氏は、自身に委ねられた役割を、こう語る(写真1)。

写真1:ヤンマーホールディングスの取締役 CDOの奥山 博史 氏

 大阪で1912年に創業したヤンマー。1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小型化を実現した。現在はグローバルに事業展開し、従業員数は約2万人、海外での売り上げが全体の約3分の2を占めるほどである。

現場のデジタル化への工夫を上司が「業務とは直接関係しない」と阻害

 CDOに就いた奥山氏が担当するのは、デジタル化とIT、情報セキュリティ。奥山氏は「就任時には、データを取得して蓄積し、それを供給するという基礎の部分から相当やり直す必要があった」と振り返る。そのためデジタル化の中期戦略として「『3つのSTEP』と『4つの重点取組事項』を同時に進める必要があった」(同)という(図1)。

図1:ヤンマーホールディングスがデジタル化の中期計画で取り組む「3つのSTEP」と「4つの重点取組事項」

 4つの重点取組事項のうち、奥山氏が主に説明したのは「草の根DX施策・グループ展開(Quick win)」と「データ活用・分析」である。

 草の根DX施策・グループ展開について奥山氏は、「実は現場レベルでは、自分でRPA(Robotic Process Automation)やローコードを活用して自動化したり、アプリケーションを作ったりしている人たちがいる」と話す。ただ「上司には内緒で取り組んでいる人が少なくなかった」(同)という。

 その理由は、「上司に話すと『業務と直接関係ないことに時間を使うな』と怒られてしまうこともあるから」(奥山氏)。結果、「黙って自分の中だけで、いろいろな最適化を進めている」(同)わけだ。

 そこで奥山氏は、「現場で個人的にデジタルツールを使って最適化を図っている人たちを掘り起こした草の根コミュニティをグループ全体で作れば、その中で支え合いや勉強会ができるのではないか」と考えた。

 始動した草の根コミュニティでは、ベンダーから人を招いてトレーニングを受けたり、業務で利用しているRPAに関する質問にすぐアドバイスを受けられたりする環境が整っている。コミュニティへの参加は立候補が条件だが、「約2万人の従業員のうち1300人が参加するまで成長した。うち3分の1以上を海外人材が占めている」(奥山氏)という。

 草の根コミュニティでの取り組み成果は、経営幹部が参加する会議で発表するほか、グループ全社のポータルサイトに掲載するなどで情報共有を図っている。奥山氏は、「ボトムアップとトップダウンの組み合わせにより、認知の拡大とテーマの発掘が進んでいる。これにより、動きが鈍い中間層を挟み込め、意識変革が推し進められている」と手応えを感じている。

GPSデータなど複数データの組み合わせで顧客を直接サポートする

 一方、データ活用・分析の取り組みとして奥山氏は、農業機械を例に挙げる。ヤンマーが扱うトラクターやコンバイン、田植え機といった農機には、多くのセンサーを設置し、さまざまなデータを取得している。

 例えば、GPS(全地球測位システム)は位置情報の管理を可能にする。従来の農業では、いつ、どんな作業をしたのかを白地図に書き込み、作業情報をアップデートしていた。そこにGPSを使えば、位置情報と共に作業情報をログとして自動的に残し管理できる。「それだけで大幅に労力を削減できる。加えて、もし盗難に遭った際もGPSで検知しエンジンを停止して使えないようにできる」(奥山氏)という(図2)。

図2:「データ活用・分析」における農業機械への適用例

 ほかにも、オペレーターの運転の癖を分析し燃費向上をアドバイスしたり、農業機械の稼働状況から部品の交換時期を提案したりが可能になる。特に「部品の交換時期の提案は非常に重要だ。田植えの時期に機械が故障すると田植えができなくなる。翌日に部品を交換できても、天候が変わって雨になると作業ができない可能性もあるからだ。部品の交換時期が事前に分かることは非常に大きな価値がある」と奥山氏は語る。

 衛星やドローンも活用している。上空から稲などを撮影したデータを分析し、葉の色などから水や窒素といった栄養素の不足などを割り出せる。そのデータはトラクターに送られ、肥料を、どの辺りに、どれだけまけばよいのかの最適化に利用する。奥山氏は、「こうしたデータ活用により、顧客をダイレクトにサポートできる」と力を込める。