• UseCase
  • 公共

さいたま市、「選ばれる都市」に向けDXで市民の生活の質を高める

都市戦略本部 情報統括監 小泉 浩之 氏

齋藤 公二
2024年7月24日

市民から地域のICTリーダーを募りデジタルデバイドを解消へ

 デジタル八策のなかでも、行政サービスを、より多くの市民に利用してもらうために欠かせないのがデジタルデバイドの解消だ。小泉氏は、「デジタルデバイドは地域全体の課題である。当市だけでなく、国や市民、民間事業者の力も借りながら市全体として取り組むことが重要だ」と強調する。

 具体策として、市が主催するスマホ講座などの事業の拡大、市民の力の活用を支えるための地域ICTリーダの養成、民間事業者との連携や国の制度の活用を進める。「これら3つの相乗効果でデジタルデバイド対策を最大化することを目指している」(小泉氏)という(図1)。

図1:さいたま市におけるデジタルデバイド対策の推進策

 例えば、市主催のスマホ講座には、公民館と共催したスマホ講座や、公民館が独自に企画した高齢者向けICT講座などがある。2023年には、共催のスマホ講座を10区10館40回開催し329人が参加。公民館独自のICT講座は100件実施し2457人が参加した。ほかにも、自治会向けのスマホ講座や、大学や老人クラブでのスマホ講座、区役所・区民まつりでのスマホ相談会も開催している。

 地域ICTリーダの養成では、意欲のある市民を募り登録している。登録に際しては「地域ICTリーダ養成講座」を受講・終了することが条件で、2024年4月時点では、「養成講座修了者が1315人、登録者数は228人に達している」と小泉氏は話す。

 登録した地域ICTリーダに向けても、スキルアップ講座や交流会、専用ポータルサイトの提供などで活動を支援する。「2023年には、高校生の若年層ICTリーダが講師になり、高校生によるスマホ講座も開催した」(小泉氏)

 民間事業者との連携や国の制度の活用では、大手通信キャリアと連携協定を結ぶほか、総務省が採択し民間事業者と連携したスマホ教室などを開いている。「連携依頼や調査依頼、取材依頼も増えており、講座に対しても、ほとんどの回で定員を超える申し込みがあるという。

 ただ小泉氏は、「今は高齢者が中心だが、障がい者への支援も検討が必要だ。デジタルデバイド解消への道のりは、まだまだ長いと考えている」と現状を評価する。

将来に向けた子育て支援やスマートシティ施策も展開

 デジタル八策では、将来に向けた政策にも取り組んでいる。例えば、子育て世代に向けては、保育園の入所や手続きをチャット形式で問い合わせられる「さいたま市保育関連AIチャットボット」や、子育てに関連する制度や施設、相談先などの情報を提供する「さいたま子育てWEB」を用意する。

 さいたま市の副都心である美園地区では、スマートシティの実現に向けた「スマートシティさいたまモデル」を推進している。データ、モビリティ(移動)、エネルギー、健康、コミュニティの5分野を設け、さまざまなプロジェクトを推進する。

 そこでは、「AIやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の仕組みやデータを活用し、さまざまな社会課題を解決する生活支援サービスを提供していく。人と人のつながりであるコミュニティを形成する取り組みを並行して実施することで、市民生活の質の向上を目指す」と小泉氏は説明する。

 さいたまモデルの推進体制としては、39団体が所属する「美園タウンマネジメント協会」や17団体が所属する「みその都市デザイン協議会」などがある。「民間企業や大学が持つ先進技術や知見を活用しながら、業務の効率化と市民サービスの向上を図る」(小泉氏)

 データ活用に関しては「さいたまシティスタット」の取り組みもある。市が業務を介して蓄積した情報や各種統計などをBI(ビジネスインテリジェンス)ツールで分析できるようにしたもので、施策の評価や検証、企画立案、業務改善に活用している(図2)。

図2:データ活用施策「さいたまシティスタット」における人口分析ツールの画面例

 例えば「過去3年間の救急出動データを分析し、救急要請が急増する時期を把握することで、運用する救急車の数を通年で増やすだけでなく、1月や7月といったピーク時に、より多くの救急車を運用する」(小泉氏)といった使い方である。

さいたま市を「住みやすい」と感じる人を90%以上に

 さらなるDX推進という観点から取り組んでいるのが、「さいたま市は住みやすい」と感じる人の割合を90%以上にする「CS90+運動」である。2023年の市民意識調査では、市民満足度は86.6%、住み続けたい人の割合は85.2%だった。

 小泉氏は、「満足度などは高い水準で増加基調が続いている。職員の意識改革や、施策・事業の推進、企業・団体などとの協働という戦略のもと、取り組みを強化していく」と力を込める。そのうえで、さいたま市のDXを推進する立場として、こうも話す。

 「DXを推進していく上では、組織のマインド、職員の意識も重要だ。今後、デジタルネイティブと呼ばれる世代が活躍するようになれば、大きく変わるのではないかと期待する。デジタル部門としては、デジタル技術の方向性や、何を使えば、どんなことができるのかといった情報を発信し、さいたま市のDXをリードしていきたい」