• UseCase
  • 公共

さいたま市、「選ばれる都市」に向けDXで市民の生活の質を高める

都市戦略本部 情報統括監 小泉 浩之 氏

齋藤 公二
2024年7月24日

さいたま市は『全国自治体DX推進度ランキング2023」(時事総合研究所)において総得点でトップに立った。同市の都市戦略本部 情報統括監である小泉 浩之 氏が、「CIO/CISO Japan Summit 2024」(主催:マーカス・エバンス・イベント・ジャパン、2024年5月)に登壇し、さいたま市におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みを紹介した。

 さいたま市は「選ばれる都市」を掲げ、市民がデジタル化の恩恵を受け社会を発展させていくための取り組みとしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。その成果もあってか、「全国自治体DX推進度ランキング2023」(時事総合研究所)では総得点でトップになった。

 「さいたま市のDX推進は新型コロナ対応をきっかけにスタートした。2020年11月、全庁横断的な体制として『さいたま市デジタルトランスフォーメーション(DX)推進本部』を設置し、DXコンセプト『さいたまデジタル八策』を推進してきた」−−。都市戦略本部 情報統括監の小泉 浩之 氏は、同市におけるDX推進のスタート地点をこう振り返る(写真1)。

写真1:さいたま市 都市戦略本部 情報統括監の小泉 浩之 氏

5つのワーキンググループで市のDX課題に取り組む

 さいたま市では、市長をトップとする「本部会」の下に、戦略立案や施策管理を担当する「幹事会」を設置。幹事会の下でワーキンググループ(WG)が活動する。当初は、(1)窓口デジタル化、(2)デジタルデバイド、(3)システム標準化、(4)業務デジタル化の4つのWGを設けた。2024年には新たにデジタル人材WGを設置した。各WGの役割と、2023年の取り組み例は以下の通りである。

(1)窓口デジタル化WG :電子申請や窓口業務の効率化を推進。2023年には、市民の負担軽減と窓口品質の均質化を目指す「書かない窓口」の導入検討や、業務改革(BPR:ビジネスプロセスリエンジニアリング)の推進、相談業務を支援する「AI(人工知能)相談」の導入検討などに取り組んだ

(2)デジタルデバイドWG :市民のデジタルスキルを高める。2023年は、市が主催するスマホ講座の開催や、「地域ICTリーダ」の養成・スキルアップ強化、総務省の「デジタル活用支援推進事業」制度の活用などに取り組んだ

(3)システム標準化WG :システムの標準化を進める。2023年は標準仕様書の改版に伴うFit&Gapの実施などに取り組んだ

(4)業務デジタル化WG :デジタル技術を活用した組織変革を推進する。2023年は、AI-OCR(AI技術を使った光学的文字認識)やRPA(ロボティックプロセスオートメーション)、ノーコード開発ツールの活用、生成AIの活用に向けたルール作成や周知などに取り組んだ

(5)デジタル人材WG :デジタル人材の確保・育成を目指す。2024年に新設した

 これらの取り組みについて小泉氏は、「例えば、紙の削減においても、ただ上から『減らせ』と言うだけでなく、各部署の印刷状況を見える化し、職員の意識の変化をうながした。そうした現場主導の取り組みを地道に積み重ねていくことが大切だと考えている」と話す。

デジタル八策で「市民誰一人取り残さない、きめ細やかなサポート」を目指す

 一方、さいたま市のデジタル八策では、「市民誰一人取り残さない、きめ細やかなサポート」を掲げ、これまでのデジタル施策を含め、市が推進する施策を再整理した。

 小泉氏によれば、「市民満足度の向上という観点から、(1)行政手続きでの市民負担の軽減、(2)地域社会全体のデジタル化、(3)デジタルを活用した効率的で的確な行政、(4)変化や危機に対応し得る柔軟性の4つの実現を目指している」。具体的には次の8つのテーマに取り組んでいる。

①さいたま市の全ての手続きをデジタルへ
②デジタルで支える新たなさいたま市民生活へ
③市民のデジタルへの道を拓くさいたま市へ
④市民の信頼の下、データが変えていくさいたま市へ
⑤災害にも強いデジタルを安心して使えるさいたま市へ
⑥様々な人と、ともにデジタル化を進めるさいたま市へ
⑦デジタルで市民や世界とつながるさいたま市へ
⑧デジタル時代の新たなさいたま市役所へ

 例えば、①さいたま市の全ての手続きをデジタルへでは、主な取り組みとして、窓口手続のオンライン化の拡充(電子申請・届出サービスの対象拡大)や、キャッシュレス決済の対象拡大、BPRを含めた書かない窓口の実現などを進め、その予算規模は2024年度に約7.2億円である。

 ③市民のデジタルへの道を拓くさいたま市へでは、デジタル化推進との両輪としてデジタルデバイドの解消を図り、「年齢や障害の有無を問わず、市民がデジタルの恩恵を享受できることを目指す」(小泉氏)。主な取り組みには、さいたま市スマートスクールプロジェクト(SSSP)の推進や、3次元仮想空間のメタバースを活用した不登校等児童生徒への学習支援、高齢者がデジタル活用を習得できるための環境整備などがあり、予算規模は約27.5億円だ。

 ⑧デジタル時代の新たなさいたま市役所へでは、市役所内部の業務にデジタルを活用し、業務効率の向上や職員の多様な働き方の実現を目指す。働き方に関するデジタル環境の整備や、「DX推進アドバイザー」としての外部人材の活用、デジタル人材の育成に向けた研修の実施などが対象になる。予算規模は約41.4億円である。