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産業ガスの大陽日酸、収益率向上を目的にグループ会社とのデータ連携を強化

大陽日酸 電子機材ユニット 電子機材ガス事業部 海外営業部 電材DXプロジェクト プロジェクトリーダーの武知 将平 氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年8月15日

グループ会社とのデータ連携を強化し販売計画の精度を高める

 従来、大陽日酸と、特殊ガス製造の大陽日酸JFP、ガス関連設備の大陽日酸エンジニアリングとの間には、連携のためのデータ基盤が整備されていなかった(図1)。そのため「各社の基幹システムにあるデータを参照したいときは、その事業会社に問い合わせる必要があった」(武知氏)。しかも、その問い合わせは、「電話やメールが中心で、タイムリーな情報共有ができなかった」(同)という。

図1:従来の日本酸素とホールディングス事業会社とのシステム連携の概要

 大陽日酸が顧客へ提案する際は、大陽日酸JFPや大陽日酸エンジニアリングが扱う製品やサービスを加味する必要がある。それだけにデータの分断は影響が大きい。武知氏は、「リードタイムの遅延は顧客に迷惑をかけ、当社は、せっかく得たビジネス機会を逸する。自身が営業担当だからこそ、こうした課題を何度も経験してきた」と話す。

 グループ内でのデータ連携の仕組みとして電材DXプロジェクトでは、製造業向けデータ基盤「Manufacturing Cloud」(米Salesforce製)を選定。営業向けCRMシステム「Sales Cloud」(同)や、サービス管理システム「Service Cloud」(同)のデータを統合し、対顧客情報を一元管理する(図2)。

図2:大陽日酸が導入した製造業向けCRMによるデータ管理の仕組み

 このManufacturing Cloudを、グループ各社の基幹システムとAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)で連携し、データを参照する。営業担当者は顧客からのヒアリングに加えて、各社の注文実績なども参照しながら販売計画を作成できるようになる。

 大陽日酸自身の基幹システムにおいては、「顧客の注文実績を集約・管理するだけなく、営業担当者の活動内容や見積もりの結果なども加味しながら需要を予測し、次の販売計画の作成につなげたい」と武知氏は説明する。

 販売計画は、大陽日酸の生産・調達部門も共有し、需要変動に合わせた生産計画や設備計画につなげる。その効果を武知氏は、「ガス製造に必要な原料、注入容器や生産設備のバルブなどの副資材までが、適切なタイミングに適切量を発注できるようになる」と話す。計画の精度が高まり実際のコストを認識できるようになれば、「原価削減や、場合によっては、適切な価格設定による値下げが可能になるかもしれない」(同)とも期待する。

 CRMでは「営業活動そのものの分析を進め、経験の浅い担当者1人ひとりのレベルを引き上げる。熟練者がため込んでいる属人化した知識や経験などを活用し、顧客からの信頼獲得につながる提案につなげたい」(武知氏)考えだ。

物流や製造の現場にもAIを活用し最適化を図る

 Manufacturing Cloudでは生成AI(人工知能)技術を使ったアシスタント機能「Einstein Copilot」(米Salesforce製)も積極的に利用する。営業担当者は自然言語ベースでやり取りしながら、例えば目標利益に応じた価格提案といった利益率改善につながる顧客対応策の提案を引き出し選択できるようにする。

 今後は、(1)物流経路の最適化、(2)生産拠点の最適化の2領域でもAI技術を活用していく。前者では、製品の出荷点と届け先を入力すれば、道路状況や車両情報などを勘案したルートをAI技術で作成し、最終的には担当者が判断して経路を決定できるようにする。

 後者では、受注した数量や納期などの情報を元に、各工場の生産能力や保有在庫などを勘案して製造する工場をAI技術で決定する。武知氏は「国内4工場を選択肢に、コストやキャパシティの面から、どの拠点で生産するのが顧客にとってベストなのかを判断できるようにしたい」と意気込みを隠さない。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名大陽日酸
業種製造
地域東京都品川区(本社)
課題国内の事業会社における収益率を改善したい
解決の仕組みデータ基盤を整備し、グループ会社が持つデータとの連携を強化し、提案内容や販売・生産計画など精度を高める
推進母体/体制大陽日酸、米Salesforce日本法人
活用しているデータ顧客からの受注情報や受注実績、グループ会社の受注情報や生産情報、営業担当者の活動記録や見積書など
採用している製品/サービス/技術製造業向けデータ基盤「Manufacturing Cloud」(米Salesforce製)、営業向けCRMシステム「Sales Cloud」(同)、サービス管理システム「Service Cloud」、アシスタント機能「Einstein Copilot」(同)
稼働時期2024年2月(電材DXプロジェクトの開始時期)