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マツモトプレシジョン、中小製造業が給与をアップし続けるためにDXとGXに取り組む

田中 克己(IT産業ジャーナリスト)
2024年12月3日

問題をオープンにし世の中にある知見を得て利用する

 松本氏は、小売業などを経験した後、事業承継を目的にマツモトプレシジョンに2014年に入社した。2017年の養子縁組を経て同社の4代目になった。当時、「みんなが仕事熱心で遅くまで残業するのに、給与が上がらないことを不思議に思った」という。それが現在の「給与を毎年、上げ続ける」という考えにつながっている。

 給与が上がらない原因の1つは、製品ごとの原価が分からないことだった。「社員は売れ筋の製品は言えても、稼ぎ頭の製品が分からない。『売れ筋製品は利益が出ている』と勝手に思っている。実は造れば造るほど赤字が膨らんでいるのかもしれないのに」(松本氏)だ。

 松本氏は、「利益を正しく把握できなければ経営者は判断できない」と強調する。“どんぶり経営”になり、課題の存在を知らなければ、解決策にも取り組めない。実状を“知る”には「データを収集・蓄積し、分析することが不可欠になる」(同)。そのためにマツモトプレシジョンが導入したのがERPシステムというわけだ。

 さまざまな問題を知ったら松本氏は「オープンにすることを心掛けている」という。「世の中には解決策があることのほうが多く、それを利用すればよいからだ」(同)。松本氏が世の中に知見があることを知ったきっかけは、2018年に会津若松市で開催された講演会「インダストリー4.0会津地域の未来像」に参加し、そこでの「2025年の崖・デジタルorダイ」という文脈に危機感を感じたことである。

 ただDXに取り組む以前は、「自分たちの考え方、やり方をしていた。結果、他社と同じようなシステムを作り上げるという時間も費用もムダにした」と松本氏は振り返る。DXに取り組んでからは、その考えを改め、行動を変えた。「DXの取り組みを重視することで、世の知見の多さ、活用することの重要さ、威力を実感した」(同)からだ。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名マツモトプレシジョン
業種製造業
地域福島県喜多方市
課題企業価値を高め社員の給与を毎年上げ続けたい
解決の仕組みREPシステムを基盤に社業の状況をデータに基づいて可視化し、課題を把握したうえで、DXやGXを推進する
推進母体/体制マツモトプレシジョン、アクセンチュア
活用しているデータ生産情報やCO2排出量、エネルギー使用量など
採用している製品/サービス/技術中小製造業向け共通業務プラットフォーム「Connected Manufacturing Enterprises(CMEs)」(独SAP製ERPをベースにアクセンチュアが開発)、Energy Management System(日産自動車、ダイキン工業、TISとの共同開発)、地域仮想通貨「会津コイン」
稼働時期2021年(ERPシステムの稼働時期)

田中 克己(たなか・かつみ)

IT産業ジャーナリスト 兼 一般社団法人ITビジネス研究会代表理事。日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任。2010年1月にフリーのIT産業ジャーナリストに。2004〜2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。2012年10月からITビジネス研究会代表理事も務める。40年にわたりIT産業の動向をウォッチしている。主な著書に『IT産業崩壊の危機』『IT産業再生の針路』(日経BP社)、『2020年 ITがひろげる未来の可能性』(日経BPコンサルティング、監修)などがある。