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マツモトプレシジョン、中小製造業が給与をアップし続けるためにDXとGXに取り組む

田中 克己(IT産業ジャーナリスト)
2024年12月3日

精密機械部品加工を手掛けるマツモトプレシジョンがDX(デジタルトランスフォーメーション)とGX(グリーントランスフォーメーション)とに取り組んでいる。生産性と環境価値を高め「社員の給与を毎年上げ続ける」(松本 敏忠 社長)ためだ。2024年11月下旬、会津若松市のスマートシティを推進するAiCTコンソーシアムでの同氏の講演から、目標達成に向けた取り組みや松本氏の考え方などを紹介する。

 マツモトプレシジョンは福島県喜多方市に本社を構え、社員数約150人の製造業。精密機械部品加工を手掛け、2023年度の売上高は約22億円だった。同社の松本 敏忠 社長は2021年に「企業価値を高め、社員の給与を毎年、上げ続ける」と宣言。今は「社会から選ばれる企業になること」をビジョンに、「今日的テーマと経営者のマインドセット(自己改革)を設定している」(同)

写真:マツモトプレシジョンの松本 敏忠 社長

 今日的テーマは、DX(デジタルトランスフォーメーション)とGX(グリーントランスフォーメーション)だ。DXの構想は約6年前に考え始め、その実現を支えるERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システムとして、中小製造業向け共通業務プラットフォーム「Connected Manufacturing Enterprises(CMEs)」を2021年に導入した。独SAP製のERP「S/4HANA」をベースに、アクセンチュアが大手製造業向けノウハウや知見を取り込み、各種テンプレートと共に開発したシステムだ。

 マツモトプレシジョンではCMEs導入と同時に、品目を絞り込み、「柔軟な生産体制を実現し、変化に素早く対応できるように変えた」(松本氏)。正しいデータの入力なども徹底し製造原価の可視化も容易にした。「同年の営業利益率は3%改善し、給与は4%上げた」(同)。2022年度、2023年度も給与アップを実現したという。

 一方のGXは、ERPが持つ「カーボンフットプリント算出」機能を使って推進している。具体的には、工場の生産活動におけるCO2排出量の可視化と再生エネルギーの利用状況把握である。工場は年間約400トンのCO2を排出する。それを工場の屋根などに年間760KWを発電する太陽光発電装置を設置しゼロにする。正確に言えば、太陽光発電により総排出量の20%を削減し、残り80%は非化石証書付電力を購入し相殺する。

 工場に取り付けた太陽光発電装置は、タイの電力供給事業者バンプーの日本法人であるバンプージャパンが設置したもの。マツモトプレシジョンは17年間の供給契約を結び、月額使用料を支払っている。

 バンプージャパンの伊藤 真人 取締役 再生可能エネルギー・テクノロジー事業統括 兼 会津支社長は一般論と断ってうえで、「太陽光発電設備への投資は中小企業には大きな負担になるだろう。その解決策の1つが、設備は電力供給者が設置し、需要家は電気を購入するという今回の方法になる」と話す。

エネルギーマネジメントやデジタル地域通貨の活用も考える

 ただし、生産時のCO2排出量は、輸送や原材料の調達時に発生するCO2を含めると全体の56%にとどまる。マツモトプレシジョン全体としては、さらなる削減策も必要になる。こうした実状や、生産時のCO2排出量の削減効果や実績は外部に公表している。松本氏は「ブランド力を高めるためでもある」とする。

 そうしたこともあり、エネルギーの使用状況の可視化や調達コストの最適化に向けたEMS(Energy Management System)も構築している。EV(電気自動車)を持つ日産自動車と空調機器のダイキン、VPP(Virtual Power Plant:仮想パワープラント)プラットフォームを提供するTISと共同で開発する。工場が停止する土日には、太陽光で発電した電気を地域社会に供給したり、EVを蓄電池にして電気を蓄え平日に工場の空調機器などに供給したりもする。

 マツモトプレシジョンはEVを3台の所有するほか、社員にもEV購入を奨励し、補助金を出している。停電時は社員のEVも蓄電池として活用できるようにするのが条件だ。「再生エネルギー利用の意識を高めることにもなる」(松本社長)。さらには「地域のサプライチェーンのハブを目指す」(松本社長)。取引先とのデータ連携によって「各種プロセスを可視化し、例えば、地域で最適な在庫管理を実現させる」(同)という。

 デジタル地域通貨の活用も考えている。会津地域には地域通貨「会津コイン」がある。マツモトプレシジョンでは社員に月500円の会津コインを支給する。福利厚生の一環だが、加えて「地域通貨の新しい活用方法を考える」(松本氏)のが目的だ。DXとGXにもつながるとみる。