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トルコのメトロ・イスタンブール、市内の各種鉄道の運用効率を高めるため全駅のデジタルツイン構築へ

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2025年2月6日

資産、システム、運用効率を複合的に管理・分析する

 デジタルツイン基盤は、(1)資産管理、(2)全システムの監視、(3)運用効率の達成の3つに利用する。資産管理では、設備ごとに分類・管理することで「設備の性能や状態を示すパラメーターや、保守に必要なメンテナンス文書へのアクセスを容易にする」(クシュ氏)のが目的だ。

 システムの監視では、「データ全体を共通のデータ構造で管理し、いつでも、どこでも鉄道運行を監視し、問題を把握できるようにする」とクシュ氏は話す。運用効率の達成に向けては、「エネルギーコストの削減とメンテナンス時間の短縮により、持続的なオペレーションを実現したい」(同)という。

 中でも運用効率の達成に向けては、「消費電力と温度など互いに影響し合っているパラメーターの関係性に目を向け、予期せぬ挙動までを観察することが重要だ」とクシュ氏は指摘する。

 そのための分析対象には、(1)エネルギー消費量(Energy Consumption)、(2)線路温度分布のヒートマップ(Heatmaps)、(3)設備の状態と動作(Equipment Status and Behaviors)、(4)列車の性能(Train Performance)などがある(図2)。

図2:デジタルツイン基盤で3次元モデルとパラメーターを表示した画面例

 例えば、エネルギー消費量の分析では、列車の駆動エネルギーに焦点を当てる。列車速度と回生エネルギーの関係をグラフ表示し、回生ブレーキにより、エネルギーをどれだけ回収できているかを分析する。列車の加速度と消費エネルギーの関係をグラフ表示することで、省エネ運転の促進につなげている。

 設備の状態と動作の分析では、エスカレーターやエレベーター、HVACなどの管理機器を一覧化し、例えばエレベーターと他の設備の電力消費量を比較したグラフを作成する。「全体の電力消費に占める割合を把握することで、省エネ対策の重点箇所を特定する」(クシュ氏)ためだ。ピーク時の電力予測などには「駅全体の電力消費量を時系列に見られるグラフを役立てている」(同)

 デジタルツインは保守領域にも利用する。駅内の設備にはIoT(Internet of Things:モノのインターネット)センサーを設置し、そこから得られるデータを分析する。「エスカレーターの騒音レベルや動作速度を取得し、その相互関係をグラフにすることで現状を素早く捉え、機器に発生する障害を防止するのが狙い」(クシュ氏)だ。

 列車の性能においては、「騒音レベルと運転速度には関連性があり、運転速度が高まれば騒音レベルも高まる可能性がある」とクシュ氏はみている。そこで、列車の運行管理区間ごとに関連図を作成し、「運転速度が低下し、騒音レベルが増加するポイントを探り、故障の可能性を見極めている」(同)という。AI(人工知能)技術を使った将来予測な、予兆保全に向けた仕組みに発展させたい考えである。

デジタルツインを自律型にまで引き上げ持続可能な地下鉄運営を目指す

 今後は、2030年までを目標に、全ての駅のBIMモデルを作成するとともに、デジタルツインを最終の第5段階である自律型にまで引き上げる。クシュ氏は、「全ての路線で環境負荷を低減し、より持続可能な地下鉄運用を実現したい。そのために、保守・運行部門がデジタルツインのアプリケーションを効果的に使用できるような環境を整備していく」と意気込みを隠さない。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名トルコのメトロ・イスタンブール(İstanbul metrosu)
業種公共
地域トルコ・イスタンブール県エセンレル地区(本社)
課題鉄道事業の持続可能性を高めるために、運行効率を高めながら、エネルギー消費量とメンテナンスコストを削減したい
解決の仕組み鉄道運用に関わるシステムのデータと駅舎などのBIMモデルを統合・一元管理するデジタルツインを構築し、各種パラメーターを複合的に分析することで、最適な運用・保守体制を実現する
推進母体/体制メトロ・イスタンブール(İstanbul metrosu)
活用しているデータ列車性能としての加速度・回生エネルギー、鉄道設備であるエスカレーター/エレベーターの騒音レベル・動作速度、駅舎のBIMデータなど
採用している製品/サービス/技術デジタルツイン基盤「Tandem」(米Autodesk製)、データ連携ソフトウェア「Tandem Connect」(同)
稼働時期2024年第4四半期(予測型デジタルツインへの移行完了時期)